本研究では、煮炊きなどによる加熱によって、貝殻硬組織に刻まれる成長線の変化を把握するため、現生のヤマトシジミやアサリ、ハマグリ、チョウセンハマグリを試料として、煮る、焼く、蒸すなどの加熱実験をおこない、さらに酸素同位体比の変化をみた。 最終年度は、酸素同位体比の変動をみるためにおこなった加熱実験の結果、ハマグリの酸素同位体比は200℃、30分間の燃焼より、減少した。また同一条件で300℃、30分の燃焼においても酸素同位体比は、減少した。45分、60分間の燃焼でさらに減少傾向があった。 昨年度に得られた加熱実験の結果では、ヤマトシジミにおける貝殻表面の変化は、300℃、45分間よりみられ、殻体は白色から灰褐色に変化していた。貝殻切断面の微細構造である成長線の消失は、約300℃・45分間の燃焼後に外気と接する腹縁より開始していた。所々でその成長線の計数が可能であった。成長線の消失した部分は、本来、観察できる成長線の方向に対して、垂直方向に歪なラインがみられた。 この貝殻切断面の微細構造である成長線の消失のパターンより、選定した受熱等のない資料を酸素同位体比分析の資料として用いることで、確かな古海水温度の復元ができる見通しがたった。そこで受熱等のない現生のハマグリを試料として、2022年と2021年に形成した貝殻の酸素同位体と海水温度を比較すると調和的であった。 また仮に受熱等あった資料の場合でも、消失パターンの更なる解析と酸素同位体比の変動を組み合わせことで、補正できる可能性がある。ただし、化石や考古資料の場合、埋没環境を想定する必要がある。また資料の低温状況なども考慮する必要があろう。いくつかの課題がみられ、また検鏡および測定したサンプルが少ないため、今後も継続して、実験をおこなう必要がある。
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