研究課題/領域番号 |
21K20059
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研究機関 | 独立行政法人国立文化財機構東京文化財研究所 |
研究代表者 |
芳賀 文絵 独立行政法人国立文化財機構東京文化財研究所, 保存科学研究センター, 研究員 (80754530)
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研究期間 (年度) |
2021-08-30 – 2023-03-31
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キーワード | 被災文化財 / 保存環境 / 一時保管 / 応急処置 / 真空凍結乾燥 |
研究実績の概要 |
本研究では、長期化する一時保管において、文化財収蔵を目的としない施設における保管環境の要となる因子を明らかにするため、被災資料の一時保管のための一般室利用方法について検証し、類型化を試みる調査を行っている。これらの調査を行うことで、災害後の被災資料に取られた保管・処置条件により資料がどのような状態の違いが生まれるのかが明らかになり、そこから被災資料の保管・処置のための指針となる情報を示すことができると考えられる。 令和3年度は、文化財収蔵を行っている廃校(一般建物の一室及び廃校を利用した文化財収蔵室)について、熱的、湿気的特性に着目して整理した。特に窓の断熱や気密性向上、除湿器の導入など、簡易な改修を含んだ室内環境変化に対して、過去に調査を行っている浮遊菌、害虫調査結果を反映させ、一般室運用に対する基礎データを作成した。また、収蔵資料(金属材料)の錆の進行について室との関係性について評価した。 これにより、今後一般室における資料保存環境を評価することで、災害時における保管場所の選定や設置、管理をスムーズに進行されることに貢献できると考えられる。また一時保管場所の設置は、災害時だけでなく、近年各自治体でも課題となっている文化財収蔵空間逼迫化への対応策となることも期待できる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
令和3年度までで当初の研究計画を概ね実現することができた。文化財収蔵を目的としない施設における一般建物における現地調査等については、一部訪問することができない状況があったが、令和4年度研究に追加調査を行うことで補う。
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今後の研究の推進方策 |
次年度は保管された資料の履歴による特徴を抽出し、一時保管に対する処置方法の最適化を目指す。被災資料に対する処置は多々あるが、この度の研究ではまず、処置の中でも特に効率的に、多量の資料に対して実施されている紙資料への真空凍結乾燥(以下FD)の最適条件に絞り検証を行う。FDの事例調査及びその後の資料状態について情報収集を行い、同時並行して実際の疑似的に水損させた模擬文書試料(各体積・重量、水分量、想定被災状態)に対して、各種条件によるFDを施す。これらの処置工程の条件による試料の物理強度や色の変化を調査し、適切な乾燥条件について検討する。調査においては、特にFDにおいて課題とされている資料の過乾燥、臭気の残存等と乾燥時間・温度との関係についても検証する。最終的には現在所属機関が所有している被災紙資料に対して、文化財に十分配慮した上で実物資料に対する臨床研究を行い評価する。これらの調査により、水損紙資料の乾燥において、人・時間的制約と資料状態による、最適な乾燥工程を選ぶ指針となるデータを収集する。 次年度後半はこれまでの調査結果からまとめた課題を精査し、被災資料を一時保管する際の指針作成のための汎用化を行うための研究への展開を準備する。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウイルス感染症対策のため、訪問予定地に調査をすることができなかった。
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