研究課題/領域番号 |
21K20060
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研究機関 | 独立行政法人国立文化財機構奈良文化財研究所 |
研究代表者 |
高野 紗奈江 独立行政法人国立文化財機構奈良文化財研究所, 埋蔵文化財センター, 客員研究員 (80910603)
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研究期間 (年度) |
2021-08-30 – 2023-03-31
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キーワード | 縄文原体 / 縄目 / 素材 / AI / 深層学習 / 縄文土器 |
研究実績の概要 |
本研究は、これまで不可能とされてきた縄文土器に見られる縄目の素材同定を、人工知能(AI)の一つである深層学習(Deep Learning)を活用することで打開し、縄文原体に用いられた素材を突き止めることを目的とする。コンピュータービジョンを用いた機械学習によって、植物性素材の縄と動物性素材の縄の違いが圧痕にどのような痕跡で現れるのかを客観的に明らかにし、パターンの数値化による分類と自動識別を試み、縄文の素材同定の実現を目指す。本研究が成し遂げられれば、施文原体の素材が解明されるだけではなく、縄文の人々が自然資源をどのように利用していたのか、その一端が明らかとなる。 2021年度は、AIを用いて縄文原体の素材を判別するための第一段階作業をおこなった。植物性素材から靭皮繊維を抽出し、縄文原体を復原製作して粘土板を製作する部分に関しては、一部の作業をすでに進めていたが、動物性素材を用いた縄文原体の復原は、今回が初の挑戦であった。まずは材料となる動物の皮・腱の収集に取り掛かった。京都部南丹市美山町から福井県わたる範囲で狩猟された鹿(雄・雌・子供)・猪(雄)の毛皮、鹿の腱を入手した。鯨の髭は専門業者を通じて入手し、板状になっている髭を1本1本に分解する方法も教えていただいた。民俗例と現代でも行われている方法を参考に、動物性素材の加工方法を一通り理解して、ようやく実際に復原製作できる段階まで到達している。 それと並行して、AIに画像認識させるためのより良い画像がどのようなものであるのか、複数の機材を実際に用いて検討した。まだ比較段階ではあるが、縄の圧痕にみられる繊維の‘シワ’という非常に細かい要素を正確に捉えるために必要な撮影技術と方法を修得しつつある。この撮影方法が確立されれば、いかなる縄目にも応用可能となるため、入念に検討しているが、決定次第は速やかに実施段階に移る。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究計画の当初は、動物性素材の加工方法を体得するため、北海道への調査出張を予定していたが、新型コロナウイルス感染拡大の影響で調査は実施できなかった。そこで動物考古学を専門とされる研究者の方や、狩猟を実際に行っている方、鯨の髭の加工に携わっている方々とメールや対面でやり取りをさせていただき、動画を交えて加工方法を教わった。鹿や猪に関しては腱や皮の利用と考えていたが、実際には民俗例で毛の利用もあることを教わり、たいへん勉強になった。植物性素材の採取に関しても、徳島県で楮の靭皮繊維の抽出方法を学びたいと考えていたが、コロナ第6波と重なり、調査ができなかった。その他、京都大学芦生研究林で植物採取をおこなう予定でいたが、植物採取に相応しいタイミングでの感染拡大に阻まれた。 そこで方針を転換し、すでに製作を終えている植物性素材を用いた縄文原体を施文した粘土板を対象に、どのようにすればより効果的に画像認識できるのか、研究協力者の杉山淳司教授(京都大学大学院農学研究科)ご協力のもとに検討した。回転台を用いたビデオ撮影、カメラ撮影、3Dレーザースキャナー、マイクロスコープを用いた撮影など、さまざまな機材を使用して検証し、縄の素材同定に相応しい方法を模索した。まだ検討の段階ではあるが、被写界深度合成でミクロな繊維のシワを高精細に抽出できるところまで到達しており、パターン認識に有効な方法になるだろうと考えている。
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今後の研究の推進方策 |
2022年度も調査出張に関しては、新型コロナウイルス感染状況を注視しながら計画を組むことになるだろう。植物性素材については草本・木本あわせて10種類ほど、動物性素材については熊の毛皮を入手したいと希望しているが、状況を鑑みつつ臨機応変に対応していきたい。 すでに入手できた動物性素材の加工に速やかに着手し、縄文原体を復原して粘土板を製作する。画像認識に相応しい撮影方法が決まり次第、復原粘土板の撮影を行い、AIを用いたパターン認識に取り掛かる。それと並行して、本物の縄文土器の写真撮影も開始する。実際の縄文土器は復原粘土板と異なり、湾曲を呈しており、また摩耗が著しい場合もある。すでにこの問題に関しては杉山教授と議論しており、いかにこの壁を乗り越えるかが本研究の肝心要となる。昨年度から検討している撮影方法では、この問題点も解決できる方法を模索している。AIにパターン認識させる画像数は多ければ多いほど精度が向上するので、良質な資料データを効率的に集められるよう努力する。また、データ解析では予期しなかった問題が浮上することも考えられるので、その都度、対処方策を検討しつつ研究を前進させていきたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
次年度も継続する研究の助成金であったため、当該年度の少額を次年度に繰り越し、適正な助成金の執行を進めることとした。
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