本研究の目的は、縄文土器に見られる縄目の素材同定を人工知能(AI)の一つである深層学習(Deep Learning)を活用することで打開し、縄文原体に用いられた素材を突き止めることである。縄文時代の土器は時期と地域に応じて様々な縄目文様が施され、その素材も各時期と地域に応じて変化してきた。しかし縄目から素材を同定する方法の確立は難しく、客観的な判別基準も立てられてこなかった。そこで、民俗例を参考に植物性素材と動物性素材の採取収集をおこない、集めた各素材から縄文原体を製作して学習用の模型縄文粘土板を製作し、撮影した画像をコンピュータービジョンによって機械学習させ、各素材の違いによる特徴抽出を試みた。 植物性素材では草本(5種)/木本(8種)で粘土板を13枚製作した。動物性素材ではクジラの髭(6種)、シカ・イノシシ等の皮・毛、シカの腱で縄文原体を作り、粘土板24枚を製作した。後述する画像解析において、繊維痕跡のパターンの数値化は特に重要なプロセスであるため、撮影方法においては試行錯誤を繰り返した結果、被写界深度合成画像を採用することとした。撮影には、OM SYSTEM(OM-1)を用い、各々の節の中にみられる素材痕跡の画像を、研究協力者(京大農 杉山教授)と共同して解析に供した。 まず、画像データより、個々の縄文を抽出して、タイプごとの縄文データベースを作成した。このデータベースを元に、①縄文を自動的に検出して抽出する、②植物性と動物性素材の縄文を判別する、さらに③動物性素材に用いた髭・皮・毛・腱・の4つを細分類するなど、様々な学習モデルについて検討した。同時に、識別や判別の根拠となる特徴の可視化も視野に入れて開発を続けているところである。 実際の縄文土器の画像は、縄文の摩耗や混和材の影響などを受けているため、そのような付加条件も考慮できるモデルに発展させる必要がある。
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