研究課題/領域番号 |
21K20065
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
鈴木 麻菜美 京都大学, アジア・アフリカ地域研究研究科, 特定研究員 (20911134)
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研究期間 (年度) |
2021-08-30 – 2024-03-31
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キーワード | イスラーム / 宗教と音楽 / アルバニア / ベクタシ / スーフィズム |
研究実績の概要 |
本研究では、イスラーム神秘主義(スーフィズム)の「ベクタシ教団」のバルカン半島地域での活動を通して、今日のヨーロッパにおけるイスラーム思想とその実践がどのように構築されているのかを探求することを目的としている。イスラーム思想が反映された音楽でありを分析ツールとして用い、音楽実践からイスラーム思想のみならずそれを内包する教団と信仰を受容する民衆の様態を読み取るとることを目指す。ここではイスラーム思想と民衆文化が相互に影響して形成されたベクタシ教団の音楽に着目し、A)教団形成の歴史的過程、B)音楽文化の異種混交化、C)音楽を通じた大衆化・信仰深化という項目を通してベクタシ教団の宗教的音楽実践を調査し、民衆の動態とともに展開するイスラームの形態を新たに示す。 令和4年度は、ベクタシ教団を調査対象とする実地調査を2022年8月(3週間)および2023年3月(2週間)に実施した。具体的にはティラナ市(アルバニア)に位置するベクタシ教団本部を訪問し、博物館に保存されている楽譜・音源を含む資料調査とそれらを管理する学芸員および修行僧への聞き取りを行った。また、8月19日には現在のベクタシ教団の長であるエドモンド・デデババに面会する機会を得、インタビューを行った。また、ティラナではベクタシ儀礼歌を歌う音楽家であり音楽学者でもあるエンリス・クィナミ氏からも情報提供と調査協力を得た。 上記のアルバニア・ティラナに加え地域的な比較検討のため北マケドニアのテトヴォにあるベクタシ教団のテッケ(修道場)などを訪問したほか、スーフィー教団の活動の比較検討を目的として、トルコのジェラッヒー教団、コソボのハルヴェッティ教団とルファーイー教団での観察調査も行っている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度から実地調査が行えるようになったことにより、インタビューや観察、現地での資料調査によって、それまで日本から行ってきた資料を中心とした調査から格段に実際に近づいた情報の収集が可能となった。8月19日に実施したエドモンド・デデババへの聴き取りからは共産主義政権下での教団への弾圧とその後の再建、今日に至るまでの活動、他宗教との融和、ベクタシの儀礼歌(ネフェス)が実践される場についてなど、教団側からの証言を得ることができた。そこでは教団で保存されていた先代デデババが歌う儀礼歌の録音を入手することができ、ベクタシ教団の音楽実践の事例として分析を行う予定である。また、ベクタシ儀礼歌を歌う音楽家であり音楽学者でもあるエンリス・クィナミ氏にもインタビューを行い、儀礼歌の実践状況などについて情報を得たほか、教団で得た楽譜掲載の儀礼歌の演奏や自作の宗教詩をもとにした即興など音源資料の提供を受けた。また、彼の案内による廟やモスクの見学、イスラーム財団の訪問などによって、ティラナでのイスラームの宗教実践の調査することができた。 また、調査に並行して国際発信も行った。国際伝統音楽学会(ICTM)ほか複数の国際会議で研究発表を行い、本調査の成果を報告した。また研究代表者が企画立案した国際音楽学ワークショップが2022年7月2日に“The Encounter with Religious Others through the Music and Musician in Islamic World”と題してオンラインで開催され、研究代表者を含む国内外5名の研究者が研究発表を行った。その成果はKyoto Bulletin of Islamic Area Studies, vol. 16の巻頭英文特集に掲載された。
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今後の研究の推進方策 |
研究計画は順調に進展しており、目下、調査で得た音楽資料の分析を進めている。その成果は令和5年度中に研究発表あるいは論文のかたちで発表する予定である。また、2023年8月には補足的調査として、ベクタシ教団の聖地であるトルコ・ハジュベクタシュ村(教団の名祖の没地)で行われる追悼祭の観察を考えている。
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次年度使用額が生じた理由 |
本研究は調査地(アルバニア)における音楽実践の観察とインタビューなどの現地調査と文献などによる資料調査が核となっている。そのため研究資金も、フィールドワークに際しての旅費、人件費(現地協力者への謝礼)、物品費(現地の文献・視聴覚資料の購入)のために大部分が確保されていた。調査地のコロナ感染人口や、感染対策による入国・行動制限により十分な調査が行うことができない可能性を鑑みて2021年度内は調査を差し控えた影響を受け、今年度も次年度使用額が生じている。コロナ禍での現地調査実施可能性の低さについてはすでに申請段階の計画に織り込み済みであり、調査地を含むおおむねの地域においてコロナの影響を脱した現在、今年度の調査は問題なく実施することが可能であると考えている
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