研究課題/領域番号 |
21K20072
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研究機関 | 平安女学院大学 |
研究代表者 |
朴 美ぎょん 平安女学院大学, 国際観光学部, 助教 (60908044)
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研究期間 (年度) |
2021-08-30 – 2023-03-31
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キーワード | 鬼神 / 幽霊 / トッケビ/ドッケビ / 表象 / 日韓比較 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、日韓の幽霊/鬼神の視覚イメージ(表象)のそれぞれの変遷および互いの影響関係を様々な視覚的・映像的資料に基づいて時系列で辿ることによって、両国の文化的な共通点および差異を明らかにするとともに、植民地時代から現代までの日韓文化交流史の一端を明らかにすることである。 より具体的には、①植民地時代、②軍事政権下にあった植民地解放~60年代初期、③日韓基本条約後の60年代中期~80年代、④民主化や日本文化解禁のあった90年代以降の4つの時期に区分して、各時期における韓国(朝鮮)の映画やドラマなどの映像資料に現れる鬼神表象を中心的な手がかりとして時系列で検討し、日本の幽霊からの影響や韓国固有の特徴を明らかにしたいと考えており、研究計画としては、概ね1年目に①②、2年目に③④の時期について検討したいと考えていた。 国内での調査状況としては、立命館大学のアートリサーチセンターなどを活用しながら、上記①の時期(植民地時代)の新聞記事などを収集し、分析を進めているところである。また、海外での調査状況としては、コロナ禍で難しい状態が続いていたが、最近になってようやく渡航規制が緩和されたので、2022年4月27日~5月4日に韓国に行って資料収集と現地調査を実施することができた(下記の「現在までの進行状況」で詳述する)。 今後の計画として、上記②③④の時期(植民地解放から現代まで)の日本の映画、ドラマ、アニメ作品などの流入について検討するのはもちろん、そうした影響のもとで韓国国内で制作された映画、ドラマ作品なども検討する予定である。また、既に実施した現地調査で得たデータをまとめて分析し、研究会での報告から得たフィードバックなども踏まえて、学会での報告や論文の投稿につなげていきたいと考えている(下記の「今後の研究の推進方策」で詳述する)。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
まず、国内での調査状況としては、立命館大学のアートリサーチセンターなどを活用して、上記①の時期(植民地時代)の新聞記事を調査した。当時の朝鮮半島で日本語で出版されていた「京城日報」「釜山日報」、韓国語で出版されていた「毎日申報」「東亜日報」から、幽霊/鬼神の登場する怪談記事や、日本の歌舞伎や映画の紹介記事などを収集し、それらの記事において、どのような日本の怪談が韓国に紹介されていたのか、そしてそれらがどのように評価されていたのかを検討した。幽霊が登場する多くの江戸怪談が韓国に紹介されていたこと、そしてそれらの怪談の中には当時紹介されている韓国の怪談に類似したものが多く見られることを確認した。 また、海外での調査状況としては、コロナ禍で難しい状態が続いていたが、最近になってようやく渡航規制が緩和されたので、2022年4月27日~5月4日に韓国に行って資料収集と現地調査を実施することができた。テジョン(大田)に所在する国家記録院では鬼神が登場する1980年代のテレビドラマの資料を調査し、残念ながら映像は残されていなかったものの、台本の複写を依頼することができた(今後、日本の自宅に郵送してもらう予定である)。また、5月2日と3日に、ソウルに所在する高齢者向け福祉施設(「老人停」や「敬老堂」と呼ばれる)において、80歳以上の韓国人8人を対象として、鬼神に関するイメージ調査を実施した。私(朴)はこれまでにも韓国の妖怪である「ドッケビ」や鬼神に関するイメージ調査を幅広い世代の韓国人(400人以上)に対して実施しており、今回の調査もその延長線上に位置付けられるもので、今後の鬼神(幽霊)研究のための資料(または新たに入手すべき資料を知るための手がかり)として活用したいと考えている。その他、韓国の大手遊園地である「EVERLAND」と「韓国民俗村」のお化け屋敷の現地調査も実施した。
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今後の研究の推進方策 |
まず、既に入手済みの資料や実施済みの調査をもとにした研究成果について、研究報告や論文執筆を進めていきたい。この中間報告書の提出直前の2022年5月29日に、京都精華大学の堤邦彦先生主催の怪談文芸研究会で「韓国における鬼神の認識調査」と題した研究発表を行ったので、まずはこの発表内容について、研究会で得たフィードバックを反映させたうえで、雑誌『怪と霊』に投稿したいと考えている。 また、研究計画に沿って、引き続き上記②③④の時期(植民地解放から現代まで)の日本の映画、ドラマ、アニメ作品などの韓国への流入状況について検討するとともに、そうした影響のもとで韓国国内で制作された映画、ドラマ作品なども検討する予定である。例えば、上述した国家記録院から入手予定の資料などをもとに、③の時期(軍事政権期)における鬼神表象について分析して、その研究成果を『カルチュラルスタディーズ』などの学術誌に投稿したいと考えている。また、これまでの調査から、1960年代の映画やテレビドラマに登場する鬼神表象には日本の「東海道四谷怪談」の影響が強いという印象を受けたため、この点について調査・分析を進め、その研究成果を説話伝承学会などで発表(または論文を投稿)したいと考えている。 さらに、韓国のお化け屋敷の現地調査を実施したことは上述したが、そこで見られる鬼神(幽霊)やドッケビの描かれ方について歴史的変遷を含めて検討することによって、本研究の課題に対する示唆が得られるように思われたので、今後も継続して現地調査を実施したいと考えている。具体的には、「子供大公園」「ソウルランド」「ロッテ・ワールド」などのお化け屋敷を追加で調査して、そこでの研究成果については勤務校(平安女学院大学)が発行している『国際観光学』誌に投稿したいと考えている。
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次年度使用額が生じた理由 |
コロナ禍で海外渡航が難しい状況が続き、韓国での現地調査や海外の国際学会への参加などができなかった。2022年4月27日~5月4日になってようやく韓国での資料収集と現地調査を実施することができたが、今後も韓国での長期を含めた数回の現地調査を行う予定である。具体的には例えば、文献資料調査のために韓国のソウルにある圭章閣韓国学研究院の客員研究員の資格を申請し(認められれば資料収集などがスムーズになると考えられるため)、上述した国家記録院の資料を改めて調査し、韓国各地のお化け屋敷の現地調査をしたいと考えている。また、国際学会への参加も考えており、2022年12月に韓国外国語大学で行われる日語日文学学会で研究報告をする予定である。
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