研究課題/領域番号 |
21K20074
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研究機関 | 立命館大学 |
研究代表者 |
芦 宛雪 立命館大学, 国際関係学部, 嘱託講師 (70906908)
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研究期間 (年度) |
2021-08-30 – 2023-03-31
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キーワード | ASEAN金融統合 / 商業銀行 |
研究実績の概要 |
2000年代後半以降、ASEAN金融市場の統合を見越し、東・東南アジア域内クロスボーダー参入が増えつつある一方、規制当局は競争環境の強化と金融技術進歩を目指しながら外資参入規制の緩和を進め、外資プレゼンスの拡大が域内の商業銀行部門の変容を特徴づけている。本研究はカシコン銀行の事例研究により、2000年代後半以降外資プレゼンス拡大による大規模行の所有構造・ガバナンス構造の変容をより微細に考察し、域内大手商業銀行の動きを捉える。 アジア通貨危機以降、外資出資比率が2002年から49%の高水準で維持し、創業者一族が少数株主となり、外資参入が著しく増加してきた。新たな大株主となった主要な外国投資家は、主に金融業界からであり、初回投資以降、安定した出資比率を維持してきた。創業者家族と大株主との安定したパートナーシップは、長期的には銀行経営に安定した影響を与えると考えられる。 上記の所有構造の変化に踏まえて銀行のガバナンス構造の変化について検証し、創業者一族が依然として、取締役会および経営幹部において安定的に上位の役職を占め、経営管理における創業者一族の優勢の持続が顕著であることを明らかにしている。ファミリービジネスの規模拡大につれ、創設者家族が所有権支配から経営管理支配に移行したという傾向が見られた。 さらに、本研究はASEAN地域の経済・金融一体化の進展状況に踏まえ、創業者家族5代目のリーダーであるバントゥーンによる近代化改革を分析してきた。外資出資比率の増加が銀行の最高経営レベルでは顕著な影響を及ぼしておらず、創業者一族による強いリーダーシップとマネジメント力の持続が、企業の長期的な戦略的プロジェクトに関する意思決定の安定につながり、銀行にとって顕著な競争優位性をもたらしていると結論付けた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究は、外資参入による影響についてミクロデータを用いる実証的分析をした上、カシコン銀行の事例研究によって所有構造・ガバナンス構造の変化および経営改革について検証する。今年度はコロナ禍でフィールドワークが出来なかったが、オンラインインタビューやデータ収集により、タイ証券市場で2000年から2015年までの銀行の株主情報及び財務情報を収集して分析を行った。 さらに、地域研究型の経営史アプローチに着目し、ファミリービジネス論の視点から創業者家族の所有・経営体制を検討し、特に創業者ランサム家5世代目バントゥーンによる近代化改革を分析することにより、経営環境が費用構造に与える影響のメカニズムを解明することを目指し、カシコン研究センターへのインタビューを通じ、カシコン銀行の株主総会の情報及び経営陣情報についてデータ収集して、経営陣の変容や銀行ガバナンス構造の変容について分析を行った。
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今後の研究の推進方策 |
次年度は、パンデミックの状況に応じ、フィールド調査かオンライン調査かによって、データベースを更新し、2015年から2020―2021年までの財務諸表及び株主情報を収集する。その上、銀行レベルのパネルデータを用い、外資参入が銀行パフォーマンスに与える影響を分析する。さらに、カシコン銀行のみならず、タイ国内銀行部門の財務情報により、市場レベルの影響と個々の銀行レベルの影響を区別する上、外国資本の参入がタイの商業銀行の費用および利益構造に及ぼす影響を分析していく。ASEAN金融市場の統合に伴う域内のクロスボーダー進出が、域内地場系商業銀行の人件費・設備費・研究開発費など費用構造に具体的にどのような変化を与えたか、技術進歩が生じているのか、という外資参入影響のメカニズムを解明することを目指す。 さらに、カシコン銀行及びカシコン研究センターへ取材を行い、カシコン銀行トップレベル経営陣の人事異動、2000年代以降の「八つの長期戦略的プログラム」の実施状況、特に2012-2013年以降の経営改革に焦点を当てて聞き取り調査し、カシコン銀行の所有・経営体制、経営改革及び事業戦略という三つの側面を中心的に検討し、域内事業展開パターンの特徴をまとめる。
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次年度使用額が生じた理由 |
今年度、日本とタイにおけるコロナ感染拡大により、バンコクへのフィールド調査が出来なく、タイ証券市場、カシコン銀行とカシコン銀行研究センターへのオンラインインタビューを通じ、銀行の株主情報や財務情報や及び経営陣情報についてデータを収集した。さらに、2021年開催予定の国際学会も、コロナのため2022年4月のオンライン開催に変更した。上記の理由により、当初の研究計画における旅費及びインタビューする際の謝金が今年度発生しなかった。次年度のフィールドワーク、国際学会への参加、論文の英文校閲及び投稿に使用する予定である。
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