研究課題/領域番号 |
21K20074
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
芦 宛雪 京都大学, 経済学研究科, 特定助教 (70906908)
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研究期間 (年度) |
2021-08-30 – 2024-03-31
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キーワード | 商業銀行 / ASEAN地域一体化 / 家族経営 |
研究実績の概要 |
2000年代半ばから、ASEAN経済共同体の実現に向け、地域金融市場の一体化を見越し、東・東南アジア域内クロスボーダー参入が増えつつある。一方で、規制当局は市場競争環境の更なる強化、金融機関における実践的経営ノウハウの学び及び急速な技術進歩を目指し、外資参入規制の緩和を進め、外資プレゼンスの拡大が域内の商業銀行部門の変容を特徴づけている。本研究はタイ大手商業銀行Kasikorn銀行の事例研究を通じ、2000年代後半以降ASEAN地域金融一体化における大規模行の所有構造・ガバナンス構造及び経営改革を考察し、域内大手商業銀行のビジネスモデルと経営パフォーマンスの変容を検証するものである。 アジア通貨危機直後、Kasikorn銀行における外資参入比率の急速に対し、創業者一族が少数株主となった。しかしながら、本研究は銀行の取締役会および経営幹部の人事異動に関する調査により、その所有構造の変容が銀行の経営構造に与えった影響が極めて限定されたと判明した。銀行の経営管理における創業者一族の優勢の持続が顕著である。つまり、ファミリービジネスの規模拡大につれ、創設者家族が所有権支配から経営管理支配に移行したという傾向が見られた。 さらに、本研究はアジア通貨危機以降創業者家族による三段階の近代化改革を考察した。特にEアプローチ開発プロジェクトやITインフラ開発プログラムなど、フィンテックイノベーション関連の長期戦略に重点をおき、その実施状況及び効果について検証した。分析の結果、創業者一族の安定的かつ強力なリーダーシップが銀行内部における経営戦略やマーケティングなどの意思決定の一貫性をもたらし、タイ及び周辺ASEAN諸国の銀行市場において同社の競争優位性を確立させたと結論付けられた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度は商業銀行のミクロデータを用いて実証的分析を続けたうえ、2回のフィールド調査により、Kasikorn銀行の経営陣及びKasikorn研究センターに対するインインタビューやデータ収集を行った。特に近年同社の経営改革、ビジネスモデルの変化及び域内のクロスボーダー進出に関してデータ収集し、加速された地域金融一体化におけるKasikorn銀行の対応及び新たな動きについて分析を行った。その成果を学会で発表し、タイの研究者を含めて国内外から多数のコメントを頂いた。それに踏まえ、Kasikorn銀行の経営改革をより多様な視点から分析する必要があると気づき、経営戦略に関する更なる情報収集・分析及び論文の加筆修正が必要である。
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今後の研究の推進方策 |
次年度は、Kasikorn銀行創業者一族による近代化経営改革、特に近年ランサム家5世代目バントゥーンによる近代化改革を分析し、本研究の完成度を高めていく。そのため、Kasikorn銀行、Kasikorn研究センター、タイ中央銀行及びタイ証券取引所へ聞き取り調査を行う予定である。 さらに、Kasikorn銀行の財務データ、特にASEAN周辺諸国への市場参入(支店や現地法人の設立など)による経営パフォーマンスの情報収集を行う。それに踏まえ、近年Kasikorn銀行のASEAN域内における海外展開による収益構造の変容を実証的に検証する。
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次年度使用額が生じた理由 |
次年度、Kasikorn銀行の財務データ及び経営情報、ASEAN周辺諸国で設立した支店や現地法人の経営状況とビジネスパフォーマンスのデータ収集を行うため、フィールド調査を行う予定である。さらに、その成果を論文として、次年度10月韓国で開催予定の国際学会で本研究を報告し、学術誌に投稿する予定であるため、次年度はフィールドワーク、国際学会への参加、論文の英文校閲及び投稿に使用する予定である。
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