研究課題/領域番号 |
21K20087
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
齋藤 暁 京都大学, 法学研究科, 特定助教 (90911941)
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研究期間 (年度) |
2021-08-30 – 2023-03-31
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キーワード | ドグマーティク / 法理論 / 憲法理論 / ドイツ憲法学 / ドイツ学術審議会 / 憲法学の方法 |
研究実績の概要 |
令和3(2021)年度は、ドグマーティク中心のドイツ憲法学のあり方を省察する2000年代後半以降の動向を追跡し、ドグマーティクの法理論上の問題点とその背景事情を明らかにすることを目的に研究活動を行った。 手始めに、2012年にドイツ学術審議会(Wissenschaftsrat)が提出した勧告書『ドイツにおける法学の視座ー状況・分析・勧告』と、それに応答するJuristenZeitung誌上の特集論文の講読・考察を行った。学術審議会によれば、ドイツ法学の研究は法律家養成過程との密接な結びつきによって実定法科目と基礎科目、理論研究と適用志向の研究に溝が生まれており、法学部教育のカリキュラムでも法学第一試験に応じて実定法科目の偏重、基礎科目の軽視が指摘される。この状況に応じて、連邦憲法裁判所の判例の「模写」に徹する適用志向のドグマーティクの学問的性格を疑問視する者は、「理論」をよりメタの平面のディシプリンとして設定することで、あるいはドグマーティク概念の細分化(実用/学問)によってその相対化を行う傾向があることを確認した。なおこの過程で、憲法史と憲法ドグマーティクの関係を分析し、その成果を書評論文の形で公表することが決定した。また未だ断片的ではあるが、以上の検討は北陸公法判例研究会および現代法学方法論研究会で報告し、多くの有益な批判に接することができた。特に、討論を通じて、裁判所の法的論証の様式の違いが日独の憲法(解釈)学の方法にも影響していること、また法的概念を構成する上で、そもそも前提となる法命題の共通認識が可能かという、古典的な法認識の問題に直面することを改めて意識できた。 また、当初予定していなかったが、「令和元年参議院議員選挙における議員定数配分規定の合憲性」を検討素材に、実務志向的な憲法解釈学の模範演技を実践し、論文として公表することができたのは望外の成果だった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本来であれば、初年度には、2000年代の連邦憲法裁判所の裁判例を契機に、保護範囲・介入・正当化からなる三段階審査のあり方を見直す、基本権ドグマーティク論の再構築に関して検討するはずであった。しかし、関連する文献自体は講読したものの、他の研究報告や判例評釈の執筆が重なり中断を余儀なくされた。本来であれば、検討成果を論文執筆に繋げたかったが、この点は翌年の課題となった。また、二度の研究会報告の成果を論説の形で公表する予定であったが、精査を重ねるうちに大幅にずれ込み、年度を跨ぐ形となった(ただし公表の準備はできている)。このように、当初予定していなかった判例評釈の執筆により、実務志向的な憲法解釈学の模範演技を実践し、論文として公表する望外の機会を得たものの、当初予定していた研究計画を十分に遂行できなかったため、自己評価としては少々厳しめに「やや遅れている」とした。
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今後の研究の推進方策 |
実施最終年度である令和4(2022)年度も引き続き、ドグマーティク中心のドイツ憲法学のあり方を省察する2000年代後半以降の動向を追跡し、ドグマーティクの法理論上の問題点とその背景事情を明らかにすることを目的とする。 第1に、適用志向のドグマーティクに批判の契機や学際的知見を摂取する契機が乏しいことの問題を検討する(憲法学の方法の問題)。これについては、2000年代後半以降に刊行された、ドグマーティクを相対化し補完する憲法理論や学際研究を主題とする論稿の考察を行う。 第2に、ドグマーティクが構成する法的概念に期待される「規範性」や「拘束力」の意義が不明瞭であること、そもそも前提となる法命題の共通認識が可能か等々、法的概念をめぐる法理論的分析に取り組む。その際には、KelsenやAlexyの法理論、あるいはSearleらの言語哲学の検討がヒントになると思われる。なお、この分野には明るくないため、法哲学研究者の知見を借りるなどして、議論を深化させたいと考える。
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