本研究は、畜産動物福祉法に関する最新の知見を踏まえて、EUとアメリカという異なる法体系における法展開、特徴、傾向を明らかにし、日本に示唆を得ようとするものである。法学者による畜産動物福祉法の検討はこれまで限定的であったが、アメリカにおける法的議論については研究が見られるようになってきたため、EUにおける法展開の検討を中心に行った。最終年度(2023 年度)は、畜産動物福祉法の発展経緯、動物福祉の意義、近年の立法や司法における議論の展開をまとめ、国内外で研究報告し、その一部を拙著『動物福祉と法』や『EU法研究』誌において公表した。 アメリカにおいて、動物福祉法の展開は、主に判例法もしくは州法において活発に見られるが、連邦法もないわけではない。畜産動物福祉法は、動物の繁殖・飼育、輸送、屠畜というプロセスにおける動物の扱いにおいて、動物に配慮することを要請する。連邦レベルでは、輸送(24 時間輸送法)と屠畜(人道的屠畜法)が規定されているが、アメリカ国内ではその運用の課題が指摘されているところである。EU動物福祉法は、動物福祉の観点から先進性がEU圏外において強調される傾向にあるが、EU圏内においてはその課題が強調されるところであり、本研究はその運用面の課題を明らかにし、『EU法研究』誌で公表した。 本研究を通して、最新の畜産動物福祉法の検討をするにあたり、自然科学的な概念とされる動物福祉の法概念としての沿革、意義、限界を改めて確認する重要性が確認された。現在は本研究を深化させるべく「法概念としての動物福祉の研究」に着手しているところである。
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