本研究では、(1) 公判における信用性吟味の役割を担う反対尋問権が協力者証言との関係でどのように機能しているか、(2) にもかかわらず手続保障が機能不全に陥っているのは何故か、という二つの課題を考察することを目的とした。まず、(1) について、アメリカ合衆国で類型化されている信用性の弾劾方法のうち、捜査・公判協力型取引に当てはまる偏頗に着目して分析を行った。合衆国最高裁判例によれば、証人の偏頗可能性は陪審員が証人の信用性を適切に推認するため必須の情報であって対決権の保障範囲に含まれるのであり、必ず反対尋問を許さなければならない。したがって、捜査・公判協力型取引の合意に関する情報は合衆国憲法上の保護を受けており、強力な保障になっている。一方で連邦控訴審の判断を総合するとその保障の範囲は量的なものではなく質的なものにとどまる。つまり、法的評価の上では取引を結んだこと自体が核心になるのであり、刑の減軽の程度は補充的だということが示唆される。(2) については、捜査・公判協力型取引の合意に至る経緯に注目して手続保障が働かない原因の探究を行った。協力者と捜査・訴追機関の交渉の過程で情報の汚染が生じたり、証人準備が行われたりすることによって協力者証人の信用性評価は困難になる。こうした問題に対抗するためには現状の反対尋問や証拠開示は十分ではなく、この点に手続保障が虚偽証言に対抗できない理由の一つがある。
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