研究課題/領域番号 |
21K20106
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研究機関 | 神戸大学 |
研究代表者 |
河村 真実 神戸大学, 法学研究科, 助手 (30911242)
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研究期間 (年度) |
2021-08-30 – 2023-03-31
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キーワード | リベラリズム / 多文化主義 / 文化権 / 関係論的承認主義 / ナショナリズム / 社会統合 / キムリッカ / パッテン |
研究実績の概要 |
本研究では、文化維持に関する権利の必要性、集合的権利と個人の自由の両立可能性、西洋型多文化主義の日本への応用可能性という3つの論点に即し、ロールズ以降現在に至る多文化主義理論の全体像を把握する。その上で、キムリッカの理論よりも権利主体を拡大し、より積極的な国家的支援が必要だと主張するパッテンらによる「新しい権利論」すなわち関係論的承認主義の擁護可能性を解明する。特に、本年度は、上記3つの論点のうち、第一の論点である文化維持に関する権利の必要性を中心に、以下の考察を行った。 (1)本研究ではまず、社会統合等の観点から、少数派文化の維持を支援する権利が必要性に乏しいのか批判的に検討した。その結果、①ミラーに代表されるようなナショナリズムの立場からは、多様な文化集団の承認が社会を断片化させるとして、文化権の主体拡大や積極的な少数派文化擁護が、社会統合を脅かすという批判が向けられうること、②カレンズらのように移民に対する市民権の拡大を主張する論者の中にも、一律の労働基準の確保や医療保障など生活に必要な物質的権利の保障を文化権よりも優先すべきだという指摘が多く見られることなど、重要な知見が得られた。 (2)さらに、パッテンらの新しい権利論が、上記(1)のような批判に対して、どのように応答可能かという点についても考察を行った。その結果、①パッテンらが主張するように、多様な文化を積極的に承認すれば、国内に存在するあらゆる文化集団からの愛着や忠誠を獲得することが期待され、ミラーらが想定する文化的同質性による連帯よりも強靭な社会的連帯を実現しうるということ、②しかしながら、新しい権利論は、言語権以外の具体的権利についての言及が少ないため、言語権以外の文化権についても社会統合との両立が可能かということについては、さらなる検討を要することなどが、明らかになった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本年度は、当初の計画に従い、文化的少数派に対する文化権の保障が、社会統合等の観点からどのように正当化できるかという論点について、主要論者のテキストの大半を分析し終わり、論争関係の解明に一定の見通しをつけることができた。さらに、文化権の必要性に関して得られた知見については、オンラインで開催された国内外の学会等で報告を行った。こうした研究活動から、リベラルな多文化主義の全体像を把握する手がかりを一定程度得ることができたが、新型コロナウイルス感染拡大の影響により、国内外の移動が極めて困難な状況が続いたため、現地調査や資料収集を十分に行うことができず、当初の計画よりも、やや遅れが生じている。
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今後の研究の推進方策 |
ここまでの研究では、社会統合等の観点から、文化権の必要性に関する議論を相互比較し、その論争関係について一定程度明らかにすることができた。そこで、今後は、引き続き文化権の必要性に関する資料収集や分析を行いながら、当初の計画に従い、第二の論点である集合的権利と個人の自由の両立可能性や、第三の論点である西洋型多文化主義の日本への応用可能性についても考察を進める。その上で、ロールズ以降の多文化主義理論の全体像を把握し、新しい権利論の擁護可能性を解明する。その際、新型コロナウイルスの感染状況に応じて、現地調査や資料収集の時期を調整し、あるいは代替措置をとるなど対応策を講じながら、リベラルな多文化主義における新しい権利論の擁護可能性に関する考察を完成させる。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウイルス感染拡大の影響により、長期間にわたり国内外の移動が困難な状況が続いたため、現地調査や資料収集を当初の計画通りに進めることができず、次年度使用額が生じた。繰越額については、令和4年度の資料収集や分析等の研究遂行において順次執行する。
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