研究課題
本年度は、本研究の第一の論点である、文化権の必要性に関する昨年度の考察を踏まえて、本研究の第二の論点である、文化権と個人の自由の両立可能性について、以下のような考察を行った。(1)まず、少数派文化の維持を支援する文化権が、少数派文化集団の内部で抑圧されている女性や子どもなどの内部少数派の自由を侵害する可能性について検討した。その結果、①フィリップスに代表されるようなフェミニズムの立場からは、児童婚や性器切除などの抑圧行為を含む少数派文化が国家的保護を受ける場合、女性や子どもなどの内部少数派に対する人権侵害を助長する可能性が指摘されていること、②こうしたフェミニズムからの批判は、キムリッカに代表される多文化主義第一世代よりも積極的な国家的保護を主張するパッテンら第二世代に、より深刻な批判として向けられうることなどが、明らかになった。(2)さらに、パッテンら第二世代が、上記(1)のような批判に対して、どのように応答可能かという点についても考察を行った。その結果、①第二世代の議論においては、リベラルな多文化主義の本来の目的が個人の自由の擁護であることに鑑みて、人権侵害を含む文化を保護対象から除外することができるという主張がなされていること、②しかしながら、保護対象の選別に関わる正当化根拠や基準については、具体的・直接的な言及は極めて希薄であるため、第二世代の新たな多文化主義の妥当性について、さらに詳細な検討が必要になること等の重要な知見が得られた。
3: やや遅れている
本年度は、当初の計画通り、内部少数派保護に関する主要論者のテキストを分析し、パッテンら多文化主義第二世代の議論が、文化権と個人の自由の両立可能性に重要な示唆を与えていることを明らかにすることができた。しかしながら、本年度も新型コロナウイルスの影響が残る中、国外への移動が困難な状況が続き、計画通りに現地調査や資料収集を十分に行うことができず、文化権と個人の自由の両立可能性に関する考察にやや遅れが生じている。
今後は、現地調査や資料収集を行いながら、文化権と個人の自由の両立可能性に関する考察を完成させる。その上で、これまでの考察を踏まえて、ロールズ以降のリベラルな多文化主義を巡る論争関係の全体像を明らかにし、リベラルな多文化主義の擁護可能性に関する考察を進める。
新型コロナウイルス感染拡大の影響により、長期間にわたり国外への移動が困難な状況が続いたため、現地調査や資料収集を当初の計画通りに進めることができず、次年度使用が生じた。繰り越した予算については、令和5年度の資料収集や分析等の研究遂行において順次執行する予定である。
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