研究実績の概要 |
本研究の目的は, 企業が開示する会計情報のうち, ①定性情報および②定量情報がM&Aのパフォーマンスとどのように関連するのかを実証分析により解明することである。本年度は主に①定性情報に着目した分析を行った。M&Aを実施する企業は, 有価証券報告書の中でM&Aを行う目的を記述することが求められる。本分析ではこの記述の中で「収益性・効率性・成長性」に言及がある場合とない場合で, M&Aのパフォーマンスがどのように異なるのかを検証した。日本企業をサンプルとした分析の結果, 「言及あり」のサンプルは, M&A後1カ月の短期間のみ, 「言及なし」のサンプルに比べて有意に高い株式リターンを得ていた。すなわち株式市場は, 有価証券報告書における「収益性・効率性・成長性」に関する記述を短期的には高く評価していると考えられる。しかしながら, 「収益性・効率性・成長性」を表す財務指標はM&A後に改善しておらず, 株式リターンも長期的には「言及なし」のサンプルと有意な差が見られなくなっていた。すなわち, 有価証券報告書で言及された「収益性・効率性・成長性」といったM&Aの目的は平均的には実現されておらず, 株式市場も長期的には評価を下方修正していることが示唆された。以上の分析結果は, 有価証券報告書上の定性情報がM&Aに関する投資家の意思決定に大きく影響していることを示唆しており, 本研究全体の仮説を裏付ける証拠の1つである。
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