研究実績の概要 |
本研究の目的は, 企業が開示する会計情報のうち, ①定性情報および②定量情報がM&Aのパフォーマンスとどのように関連するのかを実証分析により解明することである。昨年度行った①定性情報の分析では, M&A時に開示される「M&Aの目的」に関する開示が投資家の意思決定と関連していることが明らかとなった。これに対し, 本年度は主に②定量情報に着目した分析を行った。本研究はM&A時に開示される定量情報のうち, 買収価格が対象企業の純資産を下回る際に生じる「負ののれん」に着目し, 負ののれんの発生とM&A後の企業業績の関連性について分析を行った。日本の上場企業が行ったM&Aのうち, 負ののれんまたは(正の)のれんが生じた228件をサンプルとした分析の結果, 以下のことが明らかとなった。(1) 負ののれんが発生したM&Aではその後の企業業績が低い。(2) 負ののれんの発生とその後の低業績との関連性は, 買収実施企業の経営者が利益調整の動機を持つ時や, 対象企業のM&A前の業績が低い時に, より強くなる。(3) 日本における負ののれんの会計処理の変更の前後で, (2) で示された関連性に変化が見られた。本研究の主な貢献は, 先行研究が負ののれんと買収後の低業績の関連性を主に経営者の利益調整の動機に帰着していたのに対し, 対象企業の低業績も同時に関連していることを示している点である。また, 負ののれんの会計処理の変更が上記関連性に影響を与えた可能性を示唆している点で, 会計基準設定の実務にも示唆を有している。以上のように, 研究期間全体を通した分析の結果, M&A時に企業が開示する①定性情報および②定量情報が, その後の企業業績や投資家の意思決定と大きく関連していることが明らかとなった。
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