研究課題/領域番号 |
21K20151
|
研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
田中 醇 九州大学, 経済学研究院, 学術研究員 (80908145)
|
研究期間 (年度) |
2021-08-30 – 2023-03-31
|
キーワード | 醤油醸造業史 / 日本経営史 / 食文化 |
研究実績の概要 |
本年度(2021年度)においては、新型コロナウイルスの影響がゼロであったとは言わないが、史料閲覧へも行くことができ、購入史料についても順調に収集することができた。また、以前から撮影済みであった史料を主に用いつつ、上記の収集史料を組み合わせるようなかたちで、論文を投稿することができた(「明治・大正期福岡県筑豊地域における醤油醸造経営の展開と地域性」『歴史と経済』第254号(第64巻第 2号)、2022年、1-15頁)。 本論文は、戦時にかけての時期における、醤油へ添加物(アミノ酸液)を加えるという製法の前史的な位置付けの事例を提示している。第一次大戦の影響によって大豆・小麦などの原材料価格が高騰し、一般的な醸造業者が醤油価格を向上させることで対応する中で、松喜醤油は販売醤油価格を相対的に安価に設定した。醤油価格を安価に抑えるために、1石の諸味から得られる醤油量である「醤油製成率」を上昇させ、甘味料を添加することで、低価格と一定の醤油品質を保とうとした。こうした選択には、炭鉱との関係が大きく影響しており、1918年の「炭鉱米騒動」で炭鉱労働者が求めた日用品の値下げが反映されていた。また、炭鉱労働者の中でも「最上品」を需要していた層の嗜好が、甘くて粘稠性のある醤油にあったことから、松喜醤油の供給と合致することで経営の拡大に繋がったことを指摘した。また、こうした嗜好の存在が、戦時にかけての時期における食文化の地域差にもつながっていくという点で、次の研究にもつながる側面を有している論文となった。 上述の通り、論説を投稿できたことに加えて、史料購入や史料閲覧なども順調に進めることができている。次年度についても、収集済みの資料を存分に活用しつつ、新たな資料収集も行うことによって、研究報告・論文投稿につなげていきたい。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
上述した通り、論説(「明治・大正期福岡県筑豊地域における醤油醸造経営の展開と地域性」『歴史と経済』第254号(第64巻第 2号)、2022年、1-15頁)を掲載できたという点で順調な進展であると言える。 さらに、上記の論説に続く研究についても、「昭和戦前期の福岡県筑豊地域における醤油醸造家の経営(仮)」という報告題で、経営史学会西日本部会11月例会(オンライン開催、2021年11月6日)にて報告を行うことができた。また、本報告の内容は、次年度(2022年度)の4月末の全国大会で報告する予定である。 以上に加えて、史料の収集は購入した分や、国立国会図書館で閲覧・複写をおこなった分など、順調な収集と研究への反映が行えているが、未収集・未撮影の資・史料はまだ存在していることから「おおむね順調」という進捗状況にした。次年度は、より積極的な資料収集に努めたい。
|
今後の研究の推進方策 |
次年度(2022年度)、4月末に全国大会にて研究報告を行う予定である。その報告内容には、昨年度に史料閲覧・撮影にて得られた史料による分析が含まれたものになっている。 そこで受けてコメントを、研究に反映させて今年度中には査読雑誌(『社会経済史学』)への投稿を予定している。 さらに、上述の史料の中から、派生的に別の研究もまとまりつつあるので、その内容に関しても報告や論説としての投稿を考えている。 今年度に関しては、東京へ異動になったので、福岡でしか閲覧できない史料については出張の上で閲覧・撮影する必要があるが、その予定は十分に取れそうであるので研究の遂行上は問題ないと考えている。
|
次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウイルスの影響もあって、旅費計上が少なくなったため(東京への史料調査回数が想定より少なくなった)。 次年度には、史料の大半がある福岡への旅費計上が増えることが想定されるので、その分に使用する予定である。
|