研究課題/領域番号 |
21K20157
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研究機関 | 法政大学 |
研究代表者 |
片桐 満 法政大学, 経営学部, 准教授 (80909739)
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研究期間 (年度) |
2021-08-30 – 2023-03-31
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キーワード | 為替介入 / ベトナム / 為替レート / 資産買入政策 / 日本銀行 / 金融政策 / フォワードガイダンス |
研究実績の概要 |
当研究課題では、①非線形DSGEを用いたフォワードガイダンスの効果の測定、②日本銀行によるETF買入の政策効果の定量分析、③ベトナムにおける為替介入とインフレ目標政策導入の効果、という3つの研究を並行して行うことで、低インフレ下での金融政策手段の効果について多角的な評価を行っている。各研究における2021年度の研究実績の概要は以下のとおりである。 研究①:現在、各国で主要な非伝統的金融政策の一環として採用されているフォワードガイダンスについて、政策ルールに従う金融政策として分析することで、人々の期待インフレ率に与える効果の計測を行っている。その際、金利をある一定値以下には設定できないこと(金利の実質的な下限)によって、モデルの挙動が非線形になることを考慮するため、非線形DSGEモデルと呼ばれる手法を用いている。 研究②:日本銀行が実施しているETF買入政策が、株式のリスクプレミアムを押し下げる効果について、資本資産価格モデル(CAPM)と呼ばれるモデルに基づいた定量化を行っている。その際、ETFにおける各銘柄のウェイトの違いを利用したパネルデータ分析を行うことで、因果関係の識別を可能にしている。 研究③:ベトナムの為替レートについて、貿易財と非貿易財の価格比によって実質為替レートが決定されるという理論(バラッサ=サミュエルソン理論)に基づく定式化を行ったうえで、為替介入の効果について、実際のベトナムの外貨準備のデータを用いた定量分析を行っている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究①:定量分析で用いる推計方法を途中で変更したことなどにより、進捗状況はやや予定よりも遅れているものの、データを用いた推計部分を除いた主要な定量分析は概ね終了した。 研究②:予定通り分析が進んでいる。株式の高頻度データおよび日銀ETF買入額データ構築、CAPMに基づく推計、推計結果に基づく政策効果の定量化、はそれぞれ順調に進展しており、ETF買入政策の効果や政策の終了方法(出口戦略)に関して、幾つかの興味深い政策的示唆が得られている。すでに初稿が完成し、共著者がBISの研究会で発表を行ったほか、2022年度の研究発表に向けて複数の学会に投稿済みである。 研究③:予定よりも早く進展している。ベトナムの為替レートについて、バラッサ=サミュエルソン効果によって概ね説明可能であることを示したほか、為替介入の効果について、既存研究では指摘されていなかった「期待」を通じた効果を実証的に明らかにすることができた。既に初稿を完成させ、幾つかの研究会で研究発表も行い、有益なコメントを得ることができた。
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今後の研究の推進方策 |
研究①:現時点での結果について、幾つかの学会で発表を行うほか、データを用いた推計を進めたのち、2022年度中に初稿をワーキングペーパーとしての発刊することを目指す。 研究②:2022年度には、海外での学会発表2つ(Econometric society North American Meeting、Applied econometrics society)、国内での学会発表3つ(日本金融学会、日本ファイナンス学会、Econometric society East Asian Meeting)、研究会での発表1つ(早稲田大学)、を行うことが既に決定している。共著者と分担しながら発表を行ったうえで、そこで得られたコメントを基に論文を改定し、2022年度中にワーキングペーパーとしての発刊および学術雑誌への投稿を行う予定である。 研究③:国際学会での研究発表(EcoSta2022)での発表を予定しており、そこで得られたコメントを踏まえて改訂した後、学術雑誌への投稿を行う予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
主に2つの理由によって次年度使用額が生じている。第一に、新型コロナ感染拡大によって学会が中止またはオンライン開催となったことで、学会出張費に充てる予定であった旅費が計上されなかった。第二に、新型コロナ感染拡大により、大学の研究室ではなく自宅のデスクトップPCで経済モデル用のプログラミングを行っていたため、研究室に配備予定であったワークステーションの購入を行わなかった。2022年度の使用計画としては、以下を考えている。旅費については、2021年度に研究発表を行う予定であった研究も含めて、2022年度に積極的に学会発表を予定しており、計画を上回る旅費の支出が見込まれるため、次年度使用額を含めて出張費に充てる予定である。物品費については、2021年度に購入予定であったワークステーションは既に発注済みで、2022年度前半に納入される予定であるため、次年度使用額をその費用に充てる予定である。その他の物品費の2022年度支出については、計画通りの支出を予定している。
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