本研究課題では、低インフレ下での先進国および新興国の金融政策運営について、以下の三つの研究を並行して行うことで、低インフレ下での金融政策手段の効果について多角的な評価を行うことを目的としていた。一つ目が、日本銀行によるETF買入の政策効果の定量分析である。本研究では、日本銀行によるETF買入が、(1)日次株価へプラスの影響を与え、さらに、買入政策の反循環的性質と組み合わさることで、日本株の市場ベータの低下を通じてリスクプレミアムを有意に押し下げたこと、(2)ETF買入に関するアナウンスメントが、株価に有意な影響を与えていたこと、の2点を示した。これらの結果は、今後、ETF買入の出口戦略を考えるうえで、有益な政策的示唆を与えるものである。二つ目が、ベトナムにおける為替介入の効果である。本研究では、名目為替レートに反応する為替介入政策を小規模開放経済DSGEモデルに導入し、ベトナムのデータを用いた定量的分析を行った。その結果、同国における為替介入政策が、マクロ経済の安定に寄与してきたことを明らかにしたほか、同国の実質為替レートは、いわゆるバラッサ=サミュエルソン関係と整合的であることを示した。為替介入が経済安定に与える効果については賛否両論ある中で、上記の結果は、為替介入が経済安定に寄与していた可能性を示すものとして、特に新興国経済において政策的示唆の大きい研究結果である。三つ目が、非線形DSGEを用いたフォワードガイダンスの効果の測定である。当研究については、モデルの構築まで進んだものの、実証分析を行う段階において、米国におけるコロナ感染拡大による急な利下げや、インフレ率の急伸による利上げなど、データ変動が大きい期間が続いたため、未だ実証分析を完了できていない。今後、データが揃い次第、実証分析を進めていく予定である。
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