本年度は、2008年4月に導入された特定健康診査・特定保健指導(以下、特定健診・保健指導)の導入が中高年者の行動と健康状態に与えた効果を、特定健診・保健指導導入前の健診内容の地域差を利用した差の差(以下、DID)推定により分析した。日本では特定健診・保健指導が導入される以前から健診が広く提供されていたが、健診内容は実施主体により異なっていた。特定健診・保健指導の導入により、各主体の健診内容が一定程度標準化されることとなったため、特定健診・保健指導導入による健診内容の変化には地域的差異がある。そこで、健診内容が大幅に拡充された地域を処置群、それ以外の地域を対照群として、2群の住民の健康状態の変化を比較するDID推定を行った。分析には「患者調査」や「国民生活基礎調査」、「国民健康・栄養調査」(平成14年以前は、「国民栄養調査」)といった厚生労働省が所管する政府統計を用いた。分析の結果、処置群の自治体では、生活習慣病による外来患者数の減少が確認され、加えて、生活習慣病にかかわる外来医療費が16.4%減少したことも確認された。また、生活習慣病に関連が強い脳卒中による入院患者数が減少したことが処置群で観察された。処置群では、個人の生活習慣の変化も確認され、この変化は生活習慣病の患者数減少を説明する一つの要因であるかもしれない。研究成果をまとめた論文を国際学術誌へ投稿するための準備をおこなっている。
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