2022年度は、異なる専門性を有する専門家同士が、どのようにして互いを理解しながら協働することが可能なのかという本研究の目的のもと、精神科医と心理師が、特定のケース(症例)について検討し合う症例検討会におけるフィールドワークを継続して実施した。得られたデータをもとに分析し、その結果を日本精神神経学会と日本社会学会で報告した。 日本精神神経学会では、(1)症例検討会に関する先行研究をリサーチした結果をまとめ、看護や福祉、精神医療といった各領域における症例検討会の位置づけの違いを整理した報告と、(2)症例検討会での相互行為を分析することで、精神科医と心理師の業務の違いや範囲が、当人たちによって判断され、さまざまな偶発的条件に応じてその都度変わり得ることを論じた報告を行った。日本社会学会では、症例検討会には、ケース(症例)を検討するだけでなく研修医や新人に対する教育という役割があることを、相互行為を分析することによって示した報告を行った。 これらの研究活動を通して明らかになった意義は、次の通りである。第一に、症例検討会というと、ケース(症例)を検討し合うことで治療の方向性を見出すという点にのみ着目される傾向があるなか、実践の参与者たちにとっては、教育の場という位置づけを与えられていることなどを明らかにしたことである。第二に、精神医学的診断について、診断体系に揺らぎがあることを批判的に論じる研究があるなか、精神医療従事者当人らが、精神医学的概念をどのように用いているのかを記述したことである。 このように本研究は、症例検討会で行われている活動をエスノメソドロジー研究の方法論的態度において記述したことで、自明視されることの多い症例検討会の機能を分析的に明らかにしたという点において、意義のある研究であるといえる。
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