研究課題/領域番号 |
21K20177
|
研究機関 | 一橋大学 |
研究代表者 |
飯尾 真貴子 一橋大学, 大学院社会学研究科, 講師 (50906899)
|
研究期間 (年度) |
2021-08-30 – 2023-03-31
|
キーワード | 選別的移民政策 / DACAプログラム / 非正規移民 / シティズンシップ / 社会階層移動 |
研究実績の概要 |
本研究は、2012年よりアメリカ合衆国(以下、米国)で実施されている、特定の非正規移民の若者に対して暫定的な権利を付与する「DACAプログラム(若年移民に対する強制送還延期措置)」(以下、DACA)が、若者たちにどのような影響を及ぼしているのか、かれら・かのじょらの社会移動の経験に着目し検討する。 2021年度は、新型コロナ感染症のため、米国での現地調査が実施できなかった。このため、本来予定していた移民支援団体や多様な背景をもつ非正規移民の若者たちへのインタビュー調査を断念し、(A)DACAプログラムをめぐる政策的変化と現状分析、(B)アジア系移民と非正規性をめぐる経験に着目した先行研究と資料調査の整理を中心に進めた。 課題(A)については、主に国土安全保障省が提供する統計データの把握と時系列的な政策変化をメディアなどの報道もふまえながら整理した。また、課題(B)では、いくつかの先行研究から、米国社会においてアジア系移民がモデルマイノリティとして表象されてきたために、アジア系の非正規移民の中には、滞在許可がないという事実を「恥」としてとらえ、周囲に助けを求めることを躊躇う傾向があることがわかった。一方で、こうしたアジア系移民の経験を文化的要因にのみ求めることは、米国における移民規制政策の厳格化といった制度的問題を不可視化するといった指摘もある。今後、インタビュー調査を実施し考察していくうえで、こうしたアジア系移民と非正規性をめぐる議論を十分ふまえていきたい。また、上記課題とは別に、コロナ禍において人々の社会生活を支えるエッセンシャルワーカーでもある非正規移民の正規化を推進する議論が浮上する可能性があることがわかった。これは本研究の前提となる包摂と排除の論理構成に変化をもたらす可能性もあり、こうした広い正規化をめぐる言説にも留意する必要があるだろう。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
2021年度は、先行研究の整理とともに、米国におけるフィールド調査を2022年2月~3月にかけて実施する予定であったが、コロナ禍において海外調査が躊躇われる状況であったため、延期せざるをえなかった。本来予定していたフィールド調査が実施できなかったため、研究の進捗はやや遅れているが、そのぶんDACAプログラムの現状を把握するべく、国土安全保障省(DHS)が提供する統計データの把握、DACAプログラムに関する新たな研究の整理、そしてとりわけアジア系の非正規移民の若者たちの経験に着目した先行研究の整理検討に注力した。
|
今後の研究の推進方策 |
2022年8月~9月にかけて、延期していたアメリカ合衆国におけるフィールド調査を実施したいと考えている。これまでの先行研究の整理から、DACAプログラムに該当する対象者のうち12%を占めるアジア系およびパシフィック諸島出身者の経験が十分検討されてこなかったことが指摘できる。したがって、研究代表者がこれまで対象としてきたラテンアメリカ出身の移民だけでなく、アジア系およびパシフィック諸島出身の移民へのインタビュー調査を中心に実施していきたい。また、DACAプログラムの対象者とそこから零れ落ちる若者移民を研究対象とするという基本路線は維持するものの、包括的移民法改正というより広い文脈とそれをめぐる様々な政治的言説にも注視ながら調査を実施する必要があると考えている。特に、コロナ禍によって従来の生活様式が見直しを迫られるなかで、人々の社会生活を根底から支えるエッセンシャルワーカーの重要性が認識されるようになっている。米国では、こうしたエッセンシャルワーカーの一部を非正規移民の労働者が担っており、こうした現実が今後の正規化をめぐる議論において主要論点として浮上する可能性もある。それは、本研究の前提となる「望ましい移民」と「望ましくない移民」という二元化された包摂と排除をめぐる議論の構成に影響を及ぼす可能性もあり、こうした文脈にも留意した調査が必要であると考える。
|
次年度使用額が生じた理由 |
コロナ禍の影響によって、2022年2月~3月に予定していた海外フィールド調査を延期せざるをえなかったため、次年度使用額が生じた。この分は、2023年2月~3月に別途フィールド調査を実施することで使用したい。
|