本研究では自治体職員のDV/児童虐待被害者母子への支援経験に関する調査により、母子生活支援施設(以下、施設)への入所阻害要因の特定を試みた。A県内の自治体(児童相談所、配偶者暴力相談支援センター、市町村DV児童虐待子育て支援担当課等)に勤務する職員を対象とした。自記式調査票及び返信用封筒を送付し、対象となる職員に配布していただいた。調査期間は2022年2月1日から3月1日までとした(29日間)。なお、本研究は新潟医療福祉大学倫理委員会の承認を受け、関連する利益相反はない。対象とした自治体職員600名に対し、回答者数は269名だった(回収率44.8%)。216名を分析の対象とした(有効回答率36.0%)。対象者の所属は、県市児童相談所が62名、市DVセンター(含婦人相談員)が18名、市町村が136名だった。 施設の利用ニーズがあるとアセスメントされたケースを経験した職員は6割おり、ニーズ はあるが入所しなかったケースを経験した職員は3割を超えた。ニーズがあるとアセスメントされたケースの傾向として、安全確保の必要性があり、経済的に困窮し、長期的支援が必要な傾向があったことがわかった。また、施設入所の支援方針は関係機関で共有されていたことがわかった。施設入所は実現が困難なため母に情報提供できなかったと認識していた職員は少なかったにもかかわらず、入所しなかったケースの傾向として、施設のルールや所在地が母の希望に沿わなかったことがわかった。自治体職員は、アセスメントに基づいて母に施設の情報提供を行い、関係機関で支援方針を共有しているが、施設のルールや所在地が入所の阻害要因となっている実態が明らかになった。当初希望しなかったが結果的に入所したケースの存在からは、自治体職員による意思決定支援が入所を促進する要因の一つとなっていることが示唆された。
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