最終年度の2年目は、自閉スペクトラム症(Autism Spectrum Disorder:ASD)を含む発達障害者が互いの経験を「聞く・語る」場として支援機関内で提供される、「先輩の経験談を聞くイベント」の登壇者と参加者双方を対象とした研究を実施した。具体的には、2022年7月~12月に実施された計24回分のイベントの各回で、イベント参加者(大学生、就労移行支援利用者、生活訓練利用者)の感想をWEBアンケートで取得した。結果、参加者のほとんどがイベント参加に対して肯定的・意欲的な態度であり、イベントが就職活動や卒業後の生活を具体的にイメージするために役立ったとの回答を得た。一方でイベント参加が就職活動や卒業後の生活への自信につながったかという問いへの肯定的な回答は全体の半数程度であり、見聞きした他者の経験を個人のキャリア成熟や就職活動に活かすための支援上の工夫が必要であると考えられた。また、先輩として他者に自身の経験を語った登壇者9名に対してインタビュー調査を実施した。結果、イベント登壇のために自己の経験を振り返ったことが自己理解の深化に寄与したことが推察された。先輩の立場で後輩に自己の経験を語ることは登壇者にとって社会貢献の一環としても認識され、登壇により達成感を得たことが自信につながったという例が複数認められた。 本研究は当初、「就労支援の中でASD者が互いの就労に関する経験を聞く・語ることの支援上の意義を明らかにする」ことを目的に開始された。研究を進める中で、ASD者を含む発達障害者への就労支援における「他者の経験を聴く・語る」実践は、経験を聞く者にとって有益であるだけでなく、経験を語る者にとっても自己理解の深化や自信につながる可能性があることを示すことができた。 なお、2021年度に実施した調査の成果をポスター発表によって社会に還元した。
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