研究課題/領域番号 |
21K20193
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研究機関 | 芸術文化観光専門職大学 |
研究代表者 |
高橋 加織 芸術文化観光専門職大学, 芸術文化・観光学部, 助教 (90912303)
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研究期間 (年度) |
2021-08-30 – 2023-03-31
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キーワード | 国際移動 / 女性労働 / ジェンダー / ホテル / 現地採用 / パンデミック |
研究実績の概要 |
2021年度は、「パンデミックのもと、現地採用日本人女性たちは、どのような制度的困難を経験したのか」について、調査を行った。 帰国者の女性の確定と調査準備を進め、これまで2名の調査対象者を把握しており、予備調査を行った。調査対象者2名については、2021年の研究計画に従い、次の3つの点について調査を行った。第1点目に、現地採用された国の送り出し政策、第2点目に、現地採用された国のホテル業の就業実態、第3点目に、現地および日本国内において関連資料や文献を収集し考察を進めた。当初の計画では、第4点目として、現地採用された国で継続就労する日本人女性への聞き取りおよびフィールドワーク調査を行う予定であったが、2021年度は調査対象者を見つけることができなかった。したがって、2022年度も継続して調査を行う予定である。 調査対象者のうち1名の赴任地マレーシアについて、現地の状況を調査した。マレーシアにおける新型コロナウイルスの初感染者は2020年1月23日であり、その後、マレーシア政府は、2020年3月18日「活動制限令」を発令し、全ての観光客および外国人渡航者の入国を禁止した。その結果、2020年外国人観光客数は43万人、前年比-83.4%まで落ち込んだ。これまで、インバウンドが担ってきた観光収益の約半数を一度に失った。2019年の失業率は3.3%であったが、2021年1月には、4.9%に上昇した。 得られた知見を踏まえ、マレーシアにおけるCOVID-19の影響については、東アジア日本研究者協議会第5回大会(国際学会)において、発表表題「COVID-19がもたらしたアジアにおける移動と労働への影響」として、パネル報告をおこなった。アジアの国際移動を研究する若手研究者3名とパネルを組み、「COVID-19が国際移住労働者に与えた影響 -マレーシアのホテル業を事例に」を報告した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
COVID-19の影響によりインタビュー調査の実施が難しく、文献調査およびこれまでに収集したデータの整理を行なった。これまでに行なった調査において、海外のホテルで現地採用として働く日本人スタッフは、数百室規模の大型ホテルに若干名と限定的であることが判明した。ホテル業は、顧客の個人情報を遵守する観点などから、同系列以外の同業他社と交流を深めることは稀であり、近隣のホテルであっても、他社にどのような日本人スタッフが駐在しているか把握していない場合もある。また、現地採用の日本人スタッフは任期付きであり、ほぼ2年の任期を終えると転職または帰国する女性が多く流動性が高く、他社の日本人スタッフとの横のつながりは弱いことが明らかとなった。 また、オンラインで開催された東アジア日本研究者協議会第5回大会におけるパネル報告「COVID-19がもたらしたアジアにおける移動と労働への影響」では、パンデミック禍における国際移住労働者の脆弱性について、中国、台湾、日本、マレーシアの国際比較を踏まえ議論することができた。 2021年度は、COVID-19の影響でフィールドワーク調査に大きな影響を受けた。このような状況下において、文献調査を進めることができ、2022年度の調査および本研究の成果につなげたい。
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今後の研究の推進方策 |
2022年度は、「パンデミックの影響で、帰国を強いられた彼女たちは、日本への移動と生存をどのように経験しているのか」について、調査を行う。日本における生活基盤の再構築は、どのように行なったのであろうか。日本での就職活動は、どのような困難が伴ったのであろうか。失業保険や生活保護などのアクセスは、いかなるものだったのであろうか。これらの疑問点から、本年度は、彼女たちが直面したさまざまな問題点について、調査を行いたい。 調査対象者については、本年度は、新規開業のホテルにおいて聞き取り調査を行う予定である。2021年度の対象地域である大阪、福岡に加え、本年度は、札幌、東京、横浜、千葉、名古屋、京都、沖縄などに開業したホテルにおいても、調査を行いたい。 フィールドワーク調査においては、当事者および受け入れ先企業、上司・同僚などへの聞き取り調査も行う。 また、東南アジアでは、2022年3月以降、日本からの出張者及び観光客の入国を再開している。インドネシアは2022年3月23日から、シンガポール、マレーシアおよびフィリピンは、2022年4月1日から入国者の規制緩和を行なっている。したがって、現地採用の日本人女性たちの中には、元の職場および他国のホテル業に再就職していることも想定される。そのような点も踏まえ、調査領域を広げて行きたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
2021年度は、調査対象者への対面でのインタビュー調査を行うことができなかった。したがって、2022年度は対面でのインタビュー調査を行うための旅費として、2021年度の予算を使用する。
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