リスク社会の特徴の一つに、専門知に対する信頼と不信の分極化がある。この点について、ウルリッヒ・ベックは、科学の外部への「科学的論証」の浸透が個別の「科学的知見」の相対化を引き起こしたとの仮説を示している。本研究は、ベックの仮説を歴史社会学的に検討し、その精緻化を目指した。具体的には、「科学的論証」の重要な要素である「科学的証拠」概念の展開に着目し、科学の内部と外部における「証拠」の多元化が進んだ結果、内部と外部のズレが系統的に発生し、科学の提示する「科学的証拠」が科学の外部では通用しなくなるというメカニズムが働いていることが示された。
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