研究課題/領域番号 |
21K20199
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研究機関 | 立命館大学 |
研究代表者 |
趙 相宇 立命館大学, 産業社会学部, 助教 (40906806)
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研究期間 (年度) |
2021-08-30 – 2023-03-31
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キーワード | 日韓併合記念日 / 始政記念日 / 記念日報道 / 歴史認識 / 自主性 / 参加 / 動員 / 責任 |
研究実績の概要 |
COVID-19による制限の下、2021年度はこれまでの研究成果をまとめ上げ、出版及び論文の寄稿に注力した。まず、京都大学大学院教育学研究科の出版助成を受け、本科研プロジェクトの成果を含めた『忘却された日韓関係:〈併合〉と〈分断〉の記念日報道』を創元社から刊行した。 本書の第1と2章は「日韓併合記念日」と「始政記念日」に関するものであり、それまでの追加的な調査を踏まえて既存の原稿に大幅な加筆修正を施した。これらの章では、「日韓併合」が忘却された意味を植民地時代における関連の記念日報道から拾い上げ、それらの記念日の特性と位置関係も明らかにした。 第1章では、8月29日「日韓併合記念日」の封印状況や日本人中心的なメディア・イベントの状況を明らかにし、朝鮮人の「日韓併合記念」からの疎外や、日本帝国及び朝鮮総督府側が「日韓併合」の責任から意図的に目を逸らしていたことを指摘した。第2章では、封印されていた8月29日「日韓併合記念日」が朝鮮人の植民地支配への「参加」を促す装置として10月1日「始政記念日」に吸収され、民族主義陣営もこの記念日に女性の身体の近代化という従来の問題意識から積極的に参加していたことを明らかにした。朝鮮人としての「自主性=参加」が「皇国臣民」としての「動員」に横滑りする過程を「始政記念日」のメディア・イベントを中心に示し、植民者の朝鮮人のアイデンティティに対する責任を論じた。と同時に、民族主義もまた女性の近代化という側面で植民地支配の「男性性」と共犯関係にあったことを指摘し、日韓が歴史認識問題を乗り越えるには、現状の想起のあり方に見られる相互への責任の擦り付けではなく、日韓それぞれが忘却しつつある自らの主体的な責任に目を向ける必要性を指摘した。同論稿は東アジア近代史学会の要請により、多少の修正の上、『東アジア近代史』第26号に特集としての掲載が確定した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
「日韓併合」は植民地時代にいかに意味付けられ、位置付けられてきたのか。その現状における忘却を指摘することが歴史認識問題に代表される日韓の植民地支配の想起をめぐる葛藤にいかなる論点を提供し得るのか。本研究は、こうした問題設定の下、研究を遂行し、単著の出版及び論文の寄稿という成果を挙げることができた。研究はおおむね順調に進んでいると言えるだろう。ただし、COVID-19の度重なる流行により、国外はもちろん、国内における調査にも依然として制限がある。そのため、当初の計画から遅れが生じている側面もあり、特に、綿密な調査を必要とする日韓の各地方における「日韓併合」の記念のあり方や、満州及び台湾関連の資料の収集に支障が出ている。
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今後の研究の推進方策 |
最終年度となる2022年度には、科研費の予算を最大限に有効に活用し、物理的な移動の制限がもたらした基礎的な資料収集への影響をなるべく緩和しつつ、渡航制限の解除や国内における感染状況の改善が見られた場合の実地調査にも備えて行きたい。 具体的には、まず、調査地での滞在日数が十分に確保できない場合に備え、基礎調査に有効な資料集の購入を積極的に行いたい。購入した資料を基に、フィールドワーク時に集める資料をさらに絞り、なるべく効率の良い調査を組み立てていくつもりである。 調査の対象は、当初の研究計画に基づき、日韓の主要な地方都市や、満州及び台湾といった地域における「日韓併合」の記念のあり方に焦点を当てる。韓国の地方の新聞についてはデータベース化されて日本国内でも閲覧が可能なものに絞って分析し、日本の地方紙や満州及び台湾の新聞についてはそれらの資料を揃えている日本国内の公共施設での調査に赴く予定である。その際、限られた滞在日数の中でなるべく調査を効率的に進めるためにも、各地方の行政資料などの基礎的な資料については、購入できるものに関しては優先順位の高いものから購入して行きたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
2021年度では、本科研プロジェクトによる研究成果をまとめることに注力していたことや、COVID-19の度重なる流行により国内外での調査費用がうまく執行できなかった。そのため、旅費や資料の購入に当てるはずだった予算が大幅に余ってしまう結果となった。2021年度からの繰越額は、主に「日韓併合」時代の朝鮮半島の情勢を窺える基礎的な資料の購入を予定しており、国内外での出張調査が引き続きままならない場合にも備えたい。 具体的には、1910年の「日韓併合」から1945年までの朝鮮半島の各地方の行政・財政・地方社会経済の実態を追える『韓国近代道誌』(民族文化、全27冊)及び『韓国近代邑誌』(民族文化、全64冊)の購入を予定している。本科研プロジェクトは、中央中心的な「日韓併合」の位置付けのみならず、日韓の各地方におけるその位置付けをも視野に入れており、植民地支配全期間の朝鮮半島の各地方における行政的な基礎データを網羅する上記の資料はその基礎調査にとって極めて有効なものである。円安の影響もあり、韓国からの仕入れなども必要になるこれらの基礎的な資料を揃えるには、2021年度からの繰越分だけでは足りないため、2022年度の予算も一部合わせて執行する予定である。
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