2022年度は申請者が新型コロナに罹患したため国内外での調査が予定通りには進まなかった。ただ、これまでの研究成果に基づいて学会でのワークショップ、一般向けの講演活動、年度末には韓国へのフィールドワークも行い、21年度の研究成果の発信とさらに発展的な問題提起に努めた。具体的には、日本メディア学会2022年度秋大会のメディア史研究部会において、日韓関係をメディア史的に考えることの重要性をこれまでの研究成果に基づき報告した。政治史におけるマクロなレベルでの構造転換に示唆を得つつも、そうした構造転換と社会のつながり方、そして、その媒介の蓄積がもたらす一様ではない効果について考えることの重要性を指摘した。また、8月29日には、立命館大学の福間良明教授と「日韓併合記念日」から考える記憶の構築と忘却について一般向けの対談を行なった。様々なコメントが寄せられ、「日韓併合」は記憶される一方で、その記念日の存在が忘却されることが日韓の歴史葛藤に具体的にどのような形で接続しているのかについても話し合われた。これらの報告の中で、1990年代以降の韓国社会における植民地記憶の隆興とその中で行われた忘却の実情をこれまで以上に明確に浮き彫りにする必要性が明らかになり、年度末には韓国へのフィールドワークを行なって90年代以降の植民地記憶のあり方についてさらなる調査を行なった。「日韓併合記念日」の忘却が90年代以降の日韓の歴史的な葛藤に具体的にどのような形で結実したのか。この構造の中で「日韓併合記念日」を語ることはどのような限界と有効性を有するのか。COVID-19のために制限されていた国内での「日韓併合記念日」に関する史資料の調査に加え、記憶の90年代体制の中で揺れ続ける日韓関係の内実と展望を学会及び一般社会に発信して行くためには、その忘却を現代において語る意味をより明確にすることが強く求められている。
|