本研究は、障害やケアの視点から口述筆記という創作手法を再検討することで、作家(口述者)と筆記者という関係性だけにはとどまらない、介助する者と介助される者とのケア関係の諸相を明らかにした。文学創作の場における執筆形態の一つとしてしか扱われてこなかった口述筆記の介助的側面に光をあて、文学研究と障害学の知見を従来とは異なる視点から架橋したという点において学術的意義を有している。 また本研究の成果を、芸術制作をめぐる労働の問題に敷衍することによって、これまで芸術制作の分野で周縁化されてきた感情労働・ケア労働の担い手たちの参与をどのように掬い取ることが可能かという論点にも接続し得る点に社会的意義がある。
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