研究課題/領域番号 |
21K20208
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研究機関 | 千葉大学 |
研究代表者 |
野村 和之 千葉大学, 大学院国際学術研究院, 助教 (90910216)
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研究期間 (年度) |
2021-08-30 – 2025-03-31
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キーワード | 日本語学習者 / 香港 / 言語社会化 / 想像の共同体 / 質的研究 / 応用言語学 |
研究実績の概要 |
食やポピュラー文化を中心に「日本」が広く姿を現す香港では日本語学習が情意的誘因に強く動機づけられる。広東語に加え英語・標準中国語の習得が宿命付けられる多言語社会にあって、日本語は選択外国語として広く学ばれ、最新の市勢調査では人口の2%が日本語を話すと回答する。しかし、日本語学習者が指導者や他の日本語話者との関わりの中で、日本語やそれを取り巻く文化に馴染んでいく言語社会化の過程については未解明な点も多い。特に、過去3年間で激変した政治情勢を踏まえた論考は、管見の限り、多くは存在しない。本研究は質的な手法により、「激動する政治情勢の中で生きる香港人日本語学習者は、日本語とそれが話される文化への言語社会化をどのように行うのか」を問う。調査では、言語形式の運用よりむしろ、これまで十分に詳らかにされてこなかった習慣や態度などの文化的ふるまいと、学習者が心の拠り所として想像・接近しようとする一種の<ヴァーチャルな日本>に光を当てることを目的としている。
2023年度は、4月にコロナ禍の渡航規制が解除されたばかりの香港で、1週間にわたり現地調査を行い、複数の日本語学習者(話者)にインタビューを行うことができた。そこで得られたデータを分析した結果、前著(野村,2022)が<ヴァーチャルな日本>と呼んだ概念(現象)は、応用言語学において、Norton(2013)などが提唱する「想像の共同体(imagined community/言語学習者が、将来その一員となることを思い描く共同体)」を援用・拡張することで、より深く理解できるのではないかと考えるに至った。現在、同枠組みに基づいた、本研究の成果を総括するための論文を学術誌(国際誌)に投稿し、査読結果を待っている。一方、2022年度末にオンラインで先行発表された雑誌論文(国際誌)が、2023年11月に正式に出版された(Nomura, 2023)。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
2022年度は、研究開始前に香港で得られたデータと、新たに得られたデータに基づき、学術論文(国際誌1本・国内誌1本)を出版することができた。2023年度は、4月に現地調査を行い、そこで得られたデータを「研究実績の概要」で述べた「想像の共同体」の概念を用い、海外の学術誌に投稿し、現在数ラウンドの査読を経て、再修正した原稿について、その採択結果を待っている状態である。「想像の共同体」は、もともとAnderson(2006)がナショナリズム(国民国家)を理解するために提唱した概念であり、それをNorton(2013)などが応用言語学に移入した。複数の分野に跨がる概念を整理するため、予備的な研究作業に時間を要したが、2024年度には投稿中の雑誌論文が採択されるよう全力を尽くすほか、機会があれば、研究成果を世に問う場を持ちたいと考えている。
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今後の研究の推進方策 |
ここ数年、香港を巡る情勢は大きく変化をしている。2024年度は、再度香港へ渡航し、現地の日本語教育の状況を現地調査し、香港の現状が教室活動や学習者の言動にどのような影響を及ぼしているのかを調査するとともに、関連資料の収集などを行いたい。また、研究成果を出版・発表することで、本研究を締めくくるとともに、その意義を積極的に世に問いたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
2021年度および2022年度には、香港政府が海外から入国する渡航者に対し、長期間の隔離(最長21日)を課していたため、香港に渡航し現地調査を行うことが現実的でなく、旅費の執行が一切行えなかった。2023年度は、香港に渡航し現地調査を1回行うことができたが、業務の多忙や家族の介助などのやむを得ない事情から、年度内、再度香港に渡航し、現地調査を行うことが叶わなかった。2024年度は、香港に渡航し、本研究で得られたデータの質を高めるための現地調査を行いたいと考えている。
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