日本では、外国人児童生徒の数が急増し、彼ら彼女らを支援するための教育の重要性が高まっている。こうした状況の中で大阪府の公立高校などは、外国籍教員を常勤講師として積極的に採用している。このような外国籍教員たちは言語教育だけではなく、生徒指導等といった公立学校の教員としての役割も期待されている。そこで、本研究では、参与観察及び外国籍教員へのインタビューを通して、彼ら・彼女らの複合的な役割を明らかにし、その複合性に由来する外国籍教員の葛藤を解明することを研究目的とした。その結果、外国籍教員は、言語教育以外、入学直後の外国人生徒の家庭状況や学習状況の聞き取りから、入学後の外国人生徒の生徒指導、多文化部活動、外国人生徒に特化した進路指導まで、様々な役割を果たしていることがわかった。外国籍教員は外国人生徒と類似した文化背景を共有しており、「心に届く」指導を実現できたが、生徒と教員の距離の近さによって生徒指導にネガティブな影響があることが観察できた。外国籍教員はこのような葛藤に直面しているにもかかわらず、外国人同士の問題だと片付けられてしまい、一人で悩むことが少なくないことがわかった。上述した調査結果から、外国籍教員は日本公立学校の教員の組織の中でどのように位置付けられているかを問い直す必要があると考えられる。 このように、本研究は、外国籍教員の教育実践及び直面している葛藤を描き出すことによって、教育文化の多様性から、「異文化の境界における往来」とは何かを問い直すきっかけになると考えられる。
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