【2023年度(最終年度)】 前年度までにトラブルの「解決」に関する査読論文が前年度にアクセプトされたため、最終年度は「合意」に着目した相互作用過程を視点とした。詳細は次の研究成果部分にて述べる。
【研究期間全体を通じた研究成果】 研究期間全体を通じた研究成果として、次の2点が明らかとなった。第1に、実際のフィールドワークによるトラブルの相互作用過程の分析から、トラブルが生成・変容・消失(不活化)する過程では、教師や生徒らによる微細な解釈や認知のズレを伴いながら、不確実で不安定な秩序の中でそれぞれのリアリティが構成されうること。また、トラブルをめぐるリアリティが複線的に紡がれている可能性が明らかとなった。これらの知見から、「対話」や「話し合い」によるトラブル解決の議論に再考を促した。具体的には、対話によって産出された何らかの「解決」や「合意」はそれをもってトラブルの「終わり」を意味するのではなくそれをもとに当事者たちが個別のリアリティを再構成していく資源であるということ。加えて、対話による「解決」の産出が教室内でのトラブルをめぐる解釈や認識の一致を保証し続けるものとは限らないことが示唆された。第2に、学級における合意形成に関する研究について、合意形成場面のみに焦点化されており、合意したことが学級の成員によっていかに活用あるいは修正されていくのか、その過程に関する分析が課題となっていることが明らかとなった。また、実際に、小学校におけるフィールドワークを通じて、合意形成過程及び合意後の日常生活場面における合意の活用過程に関して分析を行った。その結果、合意形成場面においても、合意の判断基準が変容していくプロセスと、教師が合意形成時に「余白」を残しながら合意を促すことで、規則の緩やかな運用や修正を可能としている点が明らかになった。
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