最終年度の前半には、文献調査等により明らかになった「コンフリクトに向き合う場」をもたらす実践の要点を構造化し、パイロット実践を実施。収集したデータを基に分析をすすめ、論文に執筆した。最終年度の後半には、ポーランドのワルシャワで関連する理論と実践の取材調査を行った。取材調査の結果と併せて、研究期間全体の成果を報告書にまとめて冊子を作成し、関連機関等に配布した。 研究期間全体を通じた成果は次の点に挙げられる。①日本の美術教育において他者をどう捉えるか、他者とのやりとりをどう考えるかという問いについて国内の研究者にインタビューを行い、超越や外部参照性、二人称と三人称によるコミュニケーションの根本的差異、美術教育における交換の重層的働きという問題圏が見出された。②文献調査により、オープンフォーム理論や実践の特徴と展開の背景を整理し、理論の提唱者のマニフェストから「量」と「質」の対比や「客観的要素と主観的要素の相互浸透」の論理を明らかにした。③オープンフォーム理論と関連した美術教育が展開したポーランドでの取材調査の成果として、オープンフォーム理論と日本の建築との関連、ワルシャワ近代美術館の教育プログラムやワルシャワ工科大学での実践にオープンフォームの理念がアップデートされつつ展開していることが明らかになった。実践の特徴に民主的な空間への志向、環境の重視が通底して見出され、派生していく問いとして、学際的、集団的な実践における異質性との交渉、空間に関与する参加者が意味を見出していく解釈の扱いについて今後の検証の必要を認識した。③オープンフォームによる美術教育実践の構造を組み込みパイロット実践を複数回行い、「コンフリクトに向き合う場」の実際として、造形と解釈の連続プロセスに現れる二つのレベルの差異、実践による教育的効果として言葉による解釈や活動後の振り返りの重要性が見出された。
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