本研究では、児童生徒の自殺事件が発生した場合に、(a)事後対応にあたる学校はいかなる困難を抱え込みうるのか、(b)第三者委員会によって行われる事実関係の調査にはいかなる実践的特徴があるのか、という2つの問いを設定している。これらの問いに答えるために本研究では(1)児童生徒の自殺事件の事後対応にあたった経験を有する学校関係者へのインタビュー調査、(2)第三者委員会の調査報告書の収集・分析、(3)第三者委員会の委員経験者の経験についてのインタビュー調査を遂行した。 研究期間全体を通じて上記調査を遂行できたことで、法的責任の問題とは必ずしも直結しない、児童生徒の自殺事件をめぐって取り組まれる事後的対応の実践について、経験的議論をおこなうことが可能になった。言うまでもなく、その具体的な様相は事例ごとに様々であるが、一般的問題として指摘しうることもある。そのうちのひとつは、マスメディア(報道)の寄与である。本研究で収集できた事例では、学校側が厳しい社会的非難を向けられた事例もあったが、学校側の対応に必ずしも責めを負うべき過失や不作為がない場合であっても、遺族の主張に依拠するかたちで、マスメディアは学校側を批判的に報じることが可能になっていた。この点が(a)学校が抱えうる困難を考える上で重要であることは言うまでもないが、(b)第三者委員会という「客観性」「中立性」を重視する(と期待される)アクターの活動について検討する上でも、マスメディア報道との関係性に着目することは必要不可欠である。またそれゆえに、多様なアクターの関係を視野に入れた社会学的記述が求められる。これらは、調査によって接近できた具体的事例の検討から得られた洞察の一部である。
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