研究課題/領域番号 |
21K20244
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研究機関 | 金沢学院大学 |
研究代表者 |
米川 泉子 金沢学院大学, 教育学部, 准教授 (40637667)
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研究期間 (年度) |
2021-08-30 – 2023-03-31
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キーワード | 教育哲学 / 幼児教育思想 / 絵本 / 保育・幼児教育 / ヌスバウム / 想像力 / ケイパビリティ・アプローチ / 子ども |
研究実績の概要 |
本研究は、幼児期における絵本を通じた人間形成について、マーサ・C・ヌスバウムの「物語的想像力」の概念から理論的な基礎付けを企図するものである。今年度は、ヌスバウムの「物語的想像力」についての概念整理を中心に、以下の2点について研究を進めた。 今年度の補助金は、 主に上記の研究を遂行するための文献の購入費に当てられた。 (1)ヌスバウムの「物語的想像力」は、大きく①高等教育における教養教育についての議論、②ケイパビリティからの議論のなかで論じられている。この議論を横断するため、主に”Cultivating Humanity”, “Creating Capabilities”, ”Poetic Justice”の著作とその研究を中心に概念整理を進めた。彼女の著作では、高等教育に焦点があてられているため、幼児教育に関わるところを重点的に整理した。 ヌスバウムは、教育を通じた人間性の涵養を視野に入れたグローバルな正義を構想し、道徳的な想像力を持ちうる市民を育成する教養教育の重要性を説いている。このような他者を愛し想像力を働かせることは、幼児期の遊びのなかで育まれる。遊びのなかで守られた人間関係を通して弱さや思いがけないことを試すことができるため、他者に思いをめぐらす能力が発達してくる。 (2)絵本を通じた人間形成における「能力」について整理を行った。今日の幼児教育において、絵本の人間形成的意義は、OECDによるキー・コンピテンシーをはじめとする能力育成という文脈や、リテラシー教育の文脈で取り上げられることが多くみられた。しかし、そこでは幼児教育の要である「遊びをとおした人間形成」の「遊び」=「絵本を読むこと」を手段化・道具化することにつながる。そのため、ヌスバウムの想像力の概念から検討することを通して、個人の想像力の涵養が、個人の内だけの視点にとどまらない点が明らかになることを整理した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
今年度は、ヌスバウムの「物語的想像力」について、主に”Cultivating Humanity”などの著作とその研究を中心に概念整理を進めることができた。今年度の研究は、本研究全体の礎を築くものであると言えるが、他方、COVID-19感染症の拡大により、学内業務が増加したことや、発注していた洋書一冊の納品が遅れたことから、まとまった見解を公にするには至っていない。しかし、今年度の研究により、ヌスバウムのケイパビリティ・アプローチにおける「人間の尊厳」の保障という観点から幼児教育についても検討するための枠組みが整理されてきたため、この「遅れ」は回収不可能なものではないと判断し、「やや遅れている」とした。
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今後の研究の推進方策 |
研究計画にのっとって、次年度は研究実績の概要(2)に挙げた、絵本の人間形成的意義における個人の想像力の涵養が、個人の内だけの視点にとどまらない新たな視点について速やかに成果が公表できるよう努める。また、本年度の研究成果をもとに、「人間の尊厳」の保障という観点から絵本を通して人間形成を再検討し、ヌスバウムの思想が、幼児教育にどのように汎用できるかを問う。 COVID-19感染症の状況がどのように拡大・収束を見せるかが引き続き不透明であるが、対応できるよう計画を見直し準備をしておく必要がある。
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次年度使用額が生じた理由 |
コロナ感染拡大により、学会に参加することができなかったため旅費が余ったことから自年始使用額が生じることとなりました。
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