研究課題/領域番号 |
21K20249
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研究機関 | 関西学院大学 |
研究代表者 |
野瀬 由季子 関西学院大学, ライティングセンター, 助教 (50908043)
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研究期間 (年度) |
2021-08-30 – 2023-03-31
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キーワード | 日本語教育機関 / 日本語教師 / 教師研修 / 授業観察 / 同僚性 / 授業デザイン / ファシリテーター |
研究実績の概要 |
2021年度は、本研究の試行版として2020年度に実施した教師研修に参加した日本語教育機関の日本語教師6名を対象に事後インタビュー調査を行い、教師研修が日本語教師の授業デザインに対する認識に与えた影響と、教師研修における日本語教師間での同僚性の構築過程を明らかにした。その結果、研修参加前、各教師は授業展開の体裁や部分的な教授方法の適否に着目したり、授業展開・教授方法の統一化を図ろうとしたりしていたが、研修参加後は使用教材の活用や学習目標の到達過程に着目する形で、授業デザインに対する認識を変容させていることが明らかになった。また、日本語教師間での同僚性の構築には、教師が自らの考えが尊重されていると感じることと、教師自らも他の教師の意見を積極的に取り入れる姿勢を持つことが重要であり、この実感や姿勢は活動に従事する中で徐々に生じることが明らかになった。さらに、同僚性の構築には研修におけるファシリテーターの介入が必要不可欠であることも示された。これらの知見から、授業観察を用いた教師研修は日本語教師の能力開発に有効であり、かつ、能力開発を支える教師間の同僚性の構築には、ファシリテーターの介入が必要であることが示唆された。 2021年度9月より実施を予定していた教師研修では、研究者がファシリテーターを担う想定であった。しかし、上述した研究結果を踏まえて調査協力機関と協議した結果、持続可能な教師研修を組織化していくためには、協力機関に所属する専任日本語教師がファシリテーターを担うことが効果的であるとの結論に至った。そこで、2021年9月から2022年3月にかけて、ファシリテーター研修を含む教師研修へと活動を再設計した。この変更により、研修の実施開始時期の点では計画よりも遅れが見られるものの、当初想定していた教師研修よりも組織での持続可能な実施を見込んだ研修形態を設計することができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2021年9月からの実施を予定していた教師研修を2022年度へと後ろ倒しする形となったものの、ファシリテーター研修という発展的な活動を含めて教師研修を実施することが決定し、研究計画を進めることができた。特に2021年度は、2020年度に試行した教師研修の評価に関する事後インタビュー調査、研究発表、調査協力機関との研修の再設計に向けた協議をそれぞれ進めることができた。 2020年度には、本研究で実施する教師研修のプロトタイプとなる教師研修を実施していた。そのため、この教師研修において、日本語教師間の同僚性がどのように構築されたのか、また、教師研修を通して日本語教師は授業デザインに対する認識をどのように変容したのかを明らかにする必要があった。2021年度に行った事後インタビュー調査の結果、授業観察を用いた教師研修は日本語教師の能力開発に有効であり、かつ、その能力開発を支える教師間の同僚性の構築のためには、ファシリテーターの介入が必要であることが示唆された。 この結果を踏まえて、調査協力機関と協議した結果、持続可能な研修を組織化していくためには、研究者ではなく協力機関に所属する専任日本語教師がファシリテーターを担うことが効果的であるとの結論に至った。そこで、2021年度は授業観察を用いた教師研修に先立って実施するファシリテーター研修の内容を計画した。研修設計に向けて、初等・中等教育期間における授業研究の知見を参考にした。また、ファシリテーターとして教師研修に参加する専任日本語教師3名を選出した。この変更により、当初想定していた教師研修よりも、組織での持続可能な実施を見込んだ研修形態を設計することができた。
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今後の研究の推進方策 |
2022年度は、ファシリテーター研修を含む教師研修の実施、ファシリテーター研修を含む教師研修の評価に関する調査研究、日本語教育機関向けの教師研修ガイドブックの作成を進める。 教師研修について、まずは2022年4月から複数回にわたって、専任日本語教師3名に対するファシリテーター研修を実施する。次に、授業観察を行う日本語教師3名とファシリテーター1名から構成される4人程度のグループを3つ構成し、それぞれのグループごとに授業観察を用いた教師研修を実施する。なお、現時点では対面での日本語授業の授業観察を想定している。しかし、新型コロナウイルス感染症対策による入国状況次第では、オンライン授業・ハイフレックス授業への切り替えも予想される。この場合、対面での日本語授業だけでなく、オンライン授業・ハイフレックス授業での授業観察も取り入れ、それぞれの状況における教師研修の実態について明らかにしていく。 研修終了後は、研修の評価に関する調査研究を行う。具体的には、研修に参加した日本語教師が記入するリフレクションシート、授業教案、他者の授業観察時に記入する参観記録、事前/事後検討会の談話データ、インタビュー調査の逐語録などのデータを分析する。明らかになった結果は各研究会・学会等での発信を予定している。 そして、日本語教育機関向けの教師研修ガイドブックの作成について、授業観察を用いた教師研修プログラムを研究実施機関以外でも組織的・継続的に実施できるよう、活動手順・各フェーズで使用するワークシート・支援体制に必要な要件をまとめたガイドブックを作成する。
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次年度使用額が生じた理由 |
2021年度はコロナ禍で学会・研究会がオンライン開催となった。これにより、2021年度に計上していた使用額の一部を2022年度に繰り越す。繰り越した使用額は、学会・研究会への参加費および学会・研究会での発表・論文投稿に必要な研究資料の購入に計上する。
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