重篤な障害を有する重症心身障害児(以下,重症児)は,意思伝達の意図そのものが未発達あるいは不明確であり,周囲の働きかけに対する反応が微弱で,話しかけたり手で触れたりしても伝わっているのか否かが分からないことがあった。近年,刺激に対する心拍数の加速・減速の変動をもとに重症児の応答を評価しようという試みもあるが,心拍の計測・分析の難しさから教育実践で活用するには障壁があった。そこで本研究では,簡便に実施できる重症児の実態把握の方法を確立することを目的とし,人工知能(AI)を用いた重症児の応答評価システムを開発した。 応答評価システムの開発にあたり,重症児は不随意運動がみられることが多く,計測時にノイズが混入しやすいという課題がみつかった。そこで,生体情報データから体動に基づくノイズを減少させる二次または三次のスプライン関数によるデータ補正を行ったうえで,心理状態に関連した心拍変動(定位・期待反応)と無関連の心拍変動を判定するAIツールを開発した。また,心拍数は安静時でも自律的に変動しており,その加速・減速の変動には自律的変動と外的刺激に惹起された変動が混在している。そこで,定位・期待反応と自律的変動の除去に最適なフィルターや,定位・期待反応と自律的変動を判別するカットオフ値を検討するため,収集した心拍データについて複数の専門家で①期待反応(加速),②定位反応(減速),③その他(反応なし)の3パターンに分類し,その結果を教師データとしてAIツールの判定アルゴリズムを構築した。AIツールの開発にはNeural Networkを採用し,MATLABのDeep Learning ToolboxでAIツールを実行できるようにした。 令和5年度(最終年度)は開発した応答評価システムについて関係者間で協議しながら特許出願書類を作成し,令和6年5月に特許出願(特願2024-075595)をした。
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