ジェンダー・セクシュアリティといった〈性〉に関わる権力性を問い直す教育実践であるクィアペダゴジーは、日本において性教育実践を担った教師によって開発されてきたものの、それらの事実は、十分に考察されてこなかった。 本研究は、クィアペダゴジーがどのように展開されたのか。そこで教師はどのような課題意識を持ち、権力性を問い直そうとしてきたのか。そして、どのような課題を今日に残しているのか明らかにし、ジェンダー・セクシュアリティ平等な社会を構築するためのクィアペタゴジー開発に関わる指針を提案することを目指すものである。本研究によって、以下の点が明らかにできた。 日本においては、1980年代後半にはすでにクィアペダゴジーの萌芽が見出せるということである。この実践は、科学的かつ人権保障を基盤においた性教育実践を創造してきた“人間と性”教育研究協議会(通称:性教協)に所属した教師たちによって取り組まれていた。 一方で、そのような教育実践を全国的に取り組むための教育制度の整備は、今日においても十分になされていないことが明らかになった。2016年に文科省によって「性同一性障害や性的指向・性自認に係る、児童生徒に対するきめ細かな対応等の実施について(教職員向け)」が公表されており、個別支援を重視した取り組みが進められている。しかしながら、当事者の子どもが「存在しない」とみなされる学校においては、学校自体を整備する動きには十分になっていないこと。加えて、教員を目指す学生たちが所属する教員養成課程のある大学においても、ジェンダー・セクシュアリティ論、性教育学が必修になっていないことなどが明らかになった。以上のように、性教育が今日「ブーム」となり、それ自体が性教育実践を推進するアクセルになっている一方で、上記のような課題が「ブレーキ」となっていると考察した。
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