研究課題/領域番号 |
21K20263
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研究機関 | 信州大学 |
研究代表者 |
植原 俊晴 信州大学, 学術研究院教育学系, 助教 (30887279)
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研究期間 (年度) |
2021-08-30 – 2023-03-31
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キーワード | 反対事例 / 批判的思考態度 / 電流と磁界 / 中学生 |
研究実績の概要 |
試行的に中学校理科で「反対事例」を用いた授業を研究協力者が行った。具体的には,中学2年生を対象に「電流とその利用」の単元で,磁界中でコイルに電流を流すとコイルが磁界から力を受けることの「反対事例」として,コイル以外のものに電流を流すとそれは磁界から力を受けるのかを提示し,この場合もコイルと同様に磁界から力を受けることを演示実験で確認した上で,一般に磁界の中を流れる電流が磁界から力を受けるという理解を定着させることを目標とした1単位時間の授業であった。なお,本実践ではコイル以外のものとして,予めアルミニウム箔を提示し,それを用いた。 この授業前後における生徒の批判的思考態度の変化を調べるため,平山・楠見(2004)が作成した4つの因子構造を持つ批判的思考態度尺度を用いたアンケート調査を行った。その結果,「論理的思考への自覚」と「証拠の重視」の2つの因子については,事後の平均点が有意に高くなった。これらの要因として,「反対事例」に関する実験の結果をグループごとに予想する過程で,授業者が根拠を明らかにして予想することを強く求めていたことが関係していると考えらえた。一方で,「客観性」の因子については有意に低くなり,「探究心」の因子については変化が認められなかった。これらについては,「反対事例」の認知負荷が小さく,言い換えると,「反対事例」として提示した課題が比較的易しく,ずべてのグループで既習事項に基づいた正しい予想のみがなされたことや,「反対事例」を確認する過程が演示実験に留まったことが影響していると思われた。 以上から,改善の余地が多くあるものの,「反対事例」を理科の教授学習過程に導入することは批判的思考態度の育成に対して,一定の効果があると考えられれた。なお,この成果については,学会での発表を経た後,学会誌などで公表する予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
新型コロナウイルス感染症まん延防止等重点措置などの発出により,小・中学校における教育活動が制限され,予定していた一部の「反対事例」を用いた理科授業を行うことができなかった。しかしながら,試行的に行った授業において,一定の成果が認められるとともに,いくつかの課題を見いだすこともでき,研究を遂行する上での指針が得られた。 本研究の期間内に目的を達成するため,研究協力者と協議を十分に行いながら研究の遂行に努める。一方で,新型コロナウイルスの感染状況という不確定な要因のため,小・中学校における教育活動が再び制限されることも考えられる。それを鑑み,柔軟に対応できる研究計画を立案するなど,研究の遂行に及ぼす影響が大きくならないようにしながら研究を進める。
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今後の研究の推進方策 |
試行的に行った授業や調査の結果から見出された課題として,①批判的思考のようなコンピテンシーに関わる態度を育成するには1単位時間の授業のみでは限定的であること,②適度な認知負荷を要する「反対事例」を設定することが挙げられる。研究協力者と協議し,①については, 1単元を通して「反対事例」を導入した授業を可能な範囲で行うこととしており,②ついては,生徒からより根拠のある多様な予想がなされることで,議論を活性化したり,観察・実験により確かめたいという動機づけを高めたりできるような「反対事例」を設定できるようにする。 また,試行的に行った授業では,科学的知識の獲得という観点から「反対事例」を導入した授業の効果を検証するには至っていない。これについては,これから実施する「反対事例」を用いた授業において,科学的知識の獲得という観点から「反対事例」を導入した授業の効果を評価する。 以上を踏まえて,本研究を遂行することで,研究の目的である「反対事例による教授学習モデル」の確立を研究期間内に目指す。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウイルス感染症まん延防止等重点措置などの発出に伴い,小・中学校における教育活動が制限されたため,予定していた授業実践や調査を行うことができなかった。それを受けて指導者用デジタル教科書などの購入を延期したため,次年度使用額が生じた。 助成金の使用については,主に,上述の指導者用デジタル教科書を始め,調査・研究に必要な物品を充実させること,研究成果を学会等で発表するための旅費,それを公表するための経費などとして支出することを考えている。
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