本研究は2ヶ年計画であり、今年度はその2年目にあたった。本研究では、アメリカ合衆国(米国)の自己表現を重視するライティング教育(表現主義)が、米国ライティング教育においてどのように位置づくのか、表現主義がどのような理論と実践を展開したのかを検討することを通して、日本のライティング教育に与える示唆を明らかにする目的としてきた。本研究の2年目にあたる本年度は、ライティング指導が評価に対して与える影響について考察した。近年、「真正の評価」論の文脈からルーブリックを用いた評価に注目が集まっているが、本来の「真正の評価」論の趣旨とは異なる形でルーブリックだけが一人歩きして、先行するルーブリックに当てはめて評価を行う「ルーブリック評価」が広まっている。結果としていかにルーブリックやレポートの「型」に対して従順に書くかに焦点が合わせられ、アカデミック・ライティングにおいて育成が目指されているスキルや思考力等が妨げられている場合がある。同様の問題は米国においてすでに論じられている。それらを手がかりとして、ライティングにおける指導的評価の可能性を考察し、その成果を以下の発表、図書、論文等にまとめた。「表現を起点とするライティングとその評価:Good Enoughな評価のために 」(日本カリキュラム学会)、「解釈学の知と実践の知:現代において「教育方法学する」とはどのようなことなのか 」(日本教育方法学会)、「ライティングにおける指導的評価の可能性:「ルーブリック評価」と形式主義を超えて」(神戸大学 学術Weeks )、『ライティング(書くこと)の評価はどうあるべきか:「ルーブリック評価」の批判的検討』」(学術Weeksシンポジウム報告書) 、『時代を拓いた教師たちⅢ:実践記録で紡ぐ戦前教育実践への扉』(日本標準)である。
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