研究実績の概要 |
自閉スペクトラム症(以下ASD)における因果関係理解の特徴を明らかにすることを目的として、本研究を実施した。最終年度は、知的発達に遅れのないASD児と、年齢や語い年齢、非言語的推論能力をマッチングした定型発達(以下TD)児を対象に、課題を実施した。実施した課題は、Baron-Cohen et al.(1986)、大谷ら(2017)、夏目・廣田(2017)、重森・廣田(2021)を参考にした因果関係理解課題と、「アニメーション版心の理論課題Ver.2」(藤野,2005)に含まれる一次の誤信念課題2題(サリーとアン課題とスマーティー課題)と二次の誤信念課題1題(ジョンとメアリー課題)であった。 その結果、心の理論課題合計通過数のみASD群の成績が有意に低く、因果関係理解の各系列及び合計得点には、群間で有意な差がみられなかった。ASDとTDで群間の成績差がなかったことから、両群を合わせて、分散分析により因果関係理解の各課題間の得点差を検討した。その結果、条件の効果は有意で、多重比較の結果、機械的系列と行動的系列との差が5%水準で有意であった。他の条件間に差はみられなかった。また、ASD群、TD群それぞれで、因果関係理解課題成績と心の理論課題合計通過数の相関係数を求めた。いずれの条件でも、有意な相関関係はみられなかった。 本研究の結果から、因果関係理解課題においては、ASD群とTD群の成績に差がないことが示された。また、先行研究において検討が必要であると指摘されていた因果関係理解成績と心の理論課題成績については、関連がみられないことが明らかとなった。一方で、誤り方のパターンや参加児が語ったストーリーについては十分な検討ができなかった。今後の課題として、課題数を増やしさらに検討を重ねること、参加児の語りについて分析することが挙げられる。
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