ヒトを含む動物のコミュニケーションでは、表情などの視覚情報と音声などの聴覚情報が大きな役割を果たす。視覚と聴覚は独立に働くとは限らず、両者の相互作用を研究することは、コミュニケーションのメカニズムを理解するうえで重要である。本研究は、コミュニケーションが視聴覚優位である点でヒトと類似した鳴禽類(歌をうたう小鳥)の求愛行動に着目し、視覚情報の有無が聴覚情報への依存性にどのような影響を及ぼすかを明らかにすることを目的とした。鳴禽類の一種であるジュウシマツのメスを対象として、まず聴覚刺激(オスの歌)と視覚刺激(オスの姿)に対する選好を調べるために、スイッチに反応すると刺激が再生される行動実験系を作製した。初めに実験の基礎として、オスの歌の特徴に対する好みを測定した。これまでの研究から、ジュウシマツのメスは幼鳥期に聞いた歌を好むことがわかっていたが、歌のどのような特徴が選好に重要であるかは不明であった。歌は数十~数百ミリ秒程度の音要素が、一定の順序で多数連なった音声である。そこで、歌の局所的な特徴(各要素)と大局的な特徴(要素の順序)のいずれか、または両方を操作した刺激をメスに呈示して選好を調べた。すると、局所的な特徴の維持された歌を好む個体が多く、要素の順序よりも短い時間スケールの特徴のほうが相対的に重要であると考えられた。これは、動物の聴覚系における複雑な音声系列の符号化について示唆を与える結果である。今後、こうした音声の時間特徴の重要性が、視覚的な社会信号の有無によってどのように変化するかをさらに検討する予定である。
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