全般的な知的発達の遅れがないにもかかわらず、読み書きに困難が生じる障害を「発達性読み書き障害」と呼ぶ。本研究の目的は、発達性読み書き障害のある成人の書字困難の原因を明らかにし、科学的根拠に基づく支援方法の提案を目指すことである。そのため、令和3年度から4年度にかけ、主に発達性読み書き障害のある成人を対象として以下I)~III)の研究活動を行い、研究成果の一部を第21回発達性ディスレクシア研究会において発表した。 I) 書字行動(手書き・タイピング・フリック入力)に対する主観的困難度についての質問紙調査 II) 音読・写字(視写)・書取(聴写)課題における反応時間の測定実験 III) 音韻認識検査、視覚認知検査、語彙検査等の認知検査および手指巧緻性検査 最終年度である令和5年度においては、上記I)~III)について健常成人のデータを取得し、健常群と障害群の比較検討を行うとともに、第22回発達性ディスレクシア研究会に参加し、解析手法や成果活用についての知見を得た。群間比較の結果を以下①~③に記す。 ①障害群は健常群と比べて、手書きに対する主観的困難度が有意に高かった。タイピングおよびフリック入力に関しては有意差がみられなかった。②音読・写字・聴写課題全てにおいて、障害群は健常群と比べて有意に反応時間が長かった。③音韻認識検査および視覚認知検査に関して、障害群は健常群と比べて有意に得点が低かった。語彙検査および手指巧緻性検査に関しては有意差がみられなかった。 以上の結果から、障害群は主観的指標(主観的困難度)および客観的指標(反応時間)の両面において、健常群と比べて手書きを困難としていることが明らかになった。また、この困難の背景として音韻認識能力および視覚認知能力の問題があると考えられる。今後は多変量解析により、認知能力と書字困難の関係について、さらに詳細な検討を行う予定である。
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