私たちは他者の動向によって影響を受ける。多くの他者がその行動をとっている場合、その動向に「つられて」しまうことは日常的にもよく経験することである。多くの他者がある行動をとっているという情報にもとづく影響のことを記述的規範とよび、記述的規範が様々な種類の社会的行動に影響を及ぼすことについての証拠は多数蓄積されてきた。
記述的規範は従来の研究では「多くの他者」がある行動をとっているという社会的な情報を与えられることと操作的に定義されてきた。一方で、具体的に何割の他者がいることが規範につながるのか、割合と規範の強さにはどのような関係があるのかについての基礎的な証拠はそれほど集積していなかった。本研究では、記述的規範の閾値を特定するために「無意味図案への名づけ課題」を開発し、記述的規範に関する基礎的な証拠を収集することを目的とした。この課題は、さまざまな割合の他者の動向の情報のもと、参加者の判断が他者の動向に影響されるかどうかを測定することができるものである。得られたデータを項目反応理を用いて分析したところ、記述的規範としての社会的影響が生じ始める閾値は、50%をやや越えた地点であることが繰り返し見出された。過半数を越える他者が賛同していることが規範としての影響をもつことは常識的な結果ではあるものの、行動データにもとづく証拠が得られた点には意義があると考える。さらに、規範の影響はおおむね線形モデルにフィットすることもわかった。より多くの他者がある行動をとっているほど、その多さにおおむね比例して規範としての影響の大きさが強くなることが示された。
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