研究課題/領域番号 |
21K20299
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
北原 祐理 東京大学, 大学院教育学研究科(教育学部), 特任助教 (60911807)
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研究期間 (年度) |
2021-08-30 – 2023-03-31
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キーワード | 感情調整 / 感情への評価 / 心理教育 / 思春期 / プログラム開発 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、感情への否定的評価を和らげる心理教育プログラムの開発である。2021年度は、対面用に作成・実施された心理教育プログラムの再分析、既存の心理教育の文献レビュー、プログラムに関する意見交換を行い、プログラムの改訂を行った。 分析によって得られた知見として、まず、怒りの機能の理解に特化したプログラムに参加した中学生において、怒りへの否定的評価(以下、怒り否定)が軽減した。また、プログラム前後の怒り否定の変化量に応じ、減少群・増加群・変化なし群を分けて分析したところ、怒り否定減少群で、悲しみへの否定的評価も減少する傾向があった。この結果は、ある感情の機能の理解が、他の感情に対するネガティブなイメージの緩和に役立つ可能性を示唆する。一方で、感情を具体的な語彙で表現する力は変化がなかった。しかし、怒り否定減少群で感情の抑制の傾向が減ったことから、感情への否定的評価の軽減は、少なくとも、感情の表出に対する抵抗感を和らげると考えられる。 以上の知見から、心理教育の効果を汎化させるには、種類の異なる感情の機能の理解や、具体的な感情語彙による体験の理解が有効だと考えた。そこで、改訂版プログラムでは、1)基本感情に加え、二次感情の特徴や機能の概説、2)具体的な感情語彙を用いて、自己感情、他者感情を表現するワーク、3)場面想定だけでなく、個人の体験を素材としたブレインストーミング、を導入する。また、効果の汎化の精査にあたって、個別の感情への否定的評価に加え、ネガティブ感情に対する態度の変化を検討する。最終的には、感情への否定的評価に介入する心理教育が、感情に対する認知的な構えや、複数の感情調整方略の使用傾向に与える影響を示す。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
当初の研究計画では、2021年度に心理教育の内容の検討と、効果指標となる尺度の作成を行う予定であった。前者については、成果を論考として公表した。後者については、予備検討において項目の修正が必要になったこと、ならびに、新型コロナウイルス感染症の影響による年間行事予定の変更により、学校での質問紙調査の承諾を得にくくなったことで、遅れが生じている。現在、年度内までに収集予定だったデータについては、オンライン調査に移行して実施の手続きを進めている。
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今後の研究の推進方策 |
尺度作成を目的とした調査研究については、オンライン調査によってデータを収集し、解析を進める。同時に、心理教育プログラムのオンライン化を進める。本研究開始当初の心理教育プログラムは、教室で一斉実施することを前提として作成された。しかし、新型コロナウイルス感染症の影響が続いており、学校によっては年次予定の変更により、実践が急遽難しくなる場合がある。そこで、教室での実践にこだわらずに、幅広い子どもの参加しやすいオンライン心理教育ワークショップの展開を検討すべきだと考えている。オンライン化においては、プログラム内容の伝達を阻害しないように、適切な構造の変更が求められる。例えば、相互交流が生まれやすいように小規模グループで行う、事前にワークシート一式を送付するなどの工夫が必要だろう。また、クラウドソーシングなどの活用により複数の地域から参加者を募る場合には、参加要件の明示や、プログラム内の素材の侵襲性に注意する必要がある。これらの留意点について説明と協議の上、参加者を募集して、研究実施が単体の学校のみに依存しないように工夫していく。
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次年度使用額が生じた理由 |
2021年度は文献収集及びデータ分析に用いる備品に関する支出が主となった。また、調査研究に関わる支出が翌年度に繰り越しになった。2022年度は、調査研究に加え、実践研究を予定している。心理教育プログラムの実施は、感染症の状況を考慮し、オンラインへの変更を予定している。従来は調査協力校の教育活動の一環として行っていた実践を、クラウドソーシングなどによる有志の参加者に対して実施することを計画しているため、繰越金の一部を謝金に充てる予定である。
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