研究課題/領域番号 |
21K20302
|
研究機関 | 大阪市立大学 |
研究代表者 |
川坂 健人 大阪市立大学, 大学院理学研究科, 特任講師 (60908416)
|
研究期間 (年度) |
2021-08-30 – 2023-03-31
|
キーワード | カワスズメ科魚類 / グッピー / 個体識別 / 顔認知 / 異人種効果 / 中枢神経基盤 |
研究実績の概要 |
本研究は、タンガニイカ湖産カワスズメ科魚類をはじめとする多様な生態や社会をもつ魚類を対象とし、かれらの個体間関係を成立・維持させる認知能力を探求する。具体的な方策は、①実験心理学的アプローチ:他者を個々に認識する「真の個体識別」や「視線追従能力」を魚類で検証し、さらに個体識別がどのような認知様式で行われるか「顔の倒立効果」や「異人種効果」といった現象を通じて解明する。②行動生態学的アプローチ:野外にて①の対象種を観察し、社会構造の複雑さとこれらの認知能力の関連を系統分析的手法から評価する。③神経生理学的アプローチ:顔認知や個体識別に特異的な脳領域の初歩的な探索を行う。という3つのアプローチを採択している。 ①はおおむね計画通りに進展しており、とりわけ魚類の顔認知研究については一定の成果を得た。第一に、顔の模様パターンに地域変異のある協同繁殖魚Neolamprologus pulcherを対象とし、自身とは異なる模様パターンの地域個体群の識別が、自身と同じ場合と比べて困難であるかを検証した。これは、普段交流のない人種の顔は見分けづらいという「異人種効果」に相当するものであり、顔認知能力が経験により発達することを示唆する。本研究は第69回日本生態学会大会などで発表し、現在も実験を継続中である。また、従来対象としていたN. pulcherとは系統・生態が大きく異なるグッピー(Poecilia reticulata)で「顔の倒立効果」を検証し、ヒトの顔認知様式の共通性や、魚類における普遍性を確認する結果が得られた。この成果については、現在、投稿準備中である。 2021年は新型コロナウイルス流行の影響もあり、他機関との連携や野外への滞在を必要とする②③については、所属機関内で完結する予備的な実験および文献調査、研究計画の立案に注力した。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
実績概要にも述べたとおり、2021年は新型コロナウィルスの影響から②③に関しては予備実験や文献調査、実験計画立案に留まった。しかし、②については共同研究者である佐藤駿氏(総合研究大学院大学)らとディスカッションを行い、タンガニイカ湖での調査に関して具体的な方針を定め、現地到着後すぐさま研究を実行できるような体制を整えることができた。③については対象種をN. pulcherとホンソメワケベラ(Labroides dimidiatus)に決定し、また予備実験から想定していた実験パラダイムが実際に適用可能であると確認できた。少数ながらも神経生理学的分析に必要な脳サンプルも得たため、本年の研究活動につながる成果は得られた。 また、①については当初の内容は計画通り進展しており、追加で「魚類における他者の姿イメージと概念」というテーマを設けその予備実験を行うなど、一部計画以上に進展している箇所もある。
|
今後の研究の推進方策 |
2021年度は予備的な内容にとどまった②③の研究を加速させる。 海外渡航が可能になり次第、ザンビア共和国に渡航しタンガニイカ湖において②に関する野外調査を実施する。具体的には、スクーバ潜水による行動観察とサンプルの採集、および現地での飼育実験である。カワスズメ科Lamprologinii族を対象に、社会構造の複雑さや個体間インタラクションの多寡に注目した観察、顔模様の有無と集団内での変異量の計測など、既知個体・未知個体の弁別実験などから、生態及び社会と認知能力の関係性を検討するために必要となるデータを収集する。帰国後は系統分析的手法からデータを分析し、論文にまとめて投稿する。 また、国内他大学の共同研究者の助言のもと、神経生理学的手法をもちいて脳サンプルを解析する。社会行動(他個体の顔の弁別)とオブジェクトの弁別で活動する脳領域を比較することで、顔神経のような社会的認知能力の基盤となる脳神経を特定する。これは大阪公立大学の所属研究室で実施する予定であるが、可能であれば共同研究者を訪問し、分析手法を直接習得したい。
|
次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウイルスの影響により、当初予定していた国際学会がオンライン開催となったほか、他大学の臨海実習施設が使用できず野外調査を延期することになった。そのため、それらに必要となる渡航費や、フィールドワークに使用する機器(潜水機材、空気ボンベの充填費用など)、施設利用料などの支払いが生じなかった。 当該年度の遅れを取り戻すため、本年は野外での調査期間を延長するほか、代替の国際学会であるISBE2022などに参加する予定であり、次年度使用額はこれに充当する。
|