本研究の目的は,未経験の出来事を誤って記憶してしまう「虚記憶」が自分に関連した事柄についての記憶から生じやすいという現象の脳内メカニズムを脳波(EEG)と磁気共鳴機能画像法(fMRI)の両側から明らかにすることである。研究実施計画では,事前準備としての行動実験,および脳活動計測実験を予定していた。本年度は,21名の実験参加者を対象に虚記憶を計測できるかどうか確認するための行動実験を実施した。その後,自己が虚記憶の形成を亢進することを確認するため,3つの行動実験を実施した。これらの実験はすべて倫理委員会で審査されたものであり,かつOpen Science Frameworkに事前登録されている。実験1では,参加者39名を対象に,自己に関連した事柄が虚記憶を増加させることを最初に報告した先行研究の再現実験を行ない,先行研究と同様の結果が得られている。実験2および実験3では,それぞれ39名,93名の参加者を集め,自己が虚記憶の形成に寄与していることをより直接的に確認した。これらの結果は,2024年度の日本心理学会および日本認知心理学会で発表される予定であり,その後は国際学術誌に投稿される予定である。 加えて,EEGおよびMRIを用いた脳活動計測実験も同時に実施しており,それぞれ現在84名,19名のデータを計測済みである。一部解析の結果,虚記憶想起時の脳活動として,メタ解析で示された箇所と同様の下頭頂小葉や内側上前頭回での賦活が認められた。この結果は,我々の実験においても虚記憶に関連した活動を捉えられていることの間接的な証左であり,今後は,虚記憶を符号化した時の脳活動や,保持している時の活動,および自己と関連づけた時の活動を同定していく予定である。
|