本研究の目的は,小児期逆境経験者の愛着の安定化に有効な安全感のプライミングを開発することであった。よって,まずは安全感のプライミングの効果を測定する心理尺度の開発を行った。本研究では安全感のプライミングの効果を測定する心理尺度として,アタッチメントの状態安定性と不安定性を測定する尺度であるState Adult Attachment Measure(SAAM)に着目した。そのため,SAAMの原著者であるOmri Gillath氏の許可を得たうえで,SAAMの日本語版を開発した。当該尺度の信頼性と妥当性を検討した結果,SAAM日本語版は原版と同様の性能を有していることが確認された。よって,SAAM日本語版を用いて安全感のプライミングの効果検証を行うこととした。 続いて,日本の一般成人を対象に安全感のプライミングの有効性を確認した。本研究では,研究協力者が有する親密な人物および被援助経験について筆記を求める安全感のプライミング課題を用いた。その結果,少なくとも日本の一般成人においては安全感のプライミングがアタッチメントの状態安定性を高めることが確認できた。そのため,小児期逆境経験を有する人々にも安全感のプライミングを適用した結果,安全感のプライミングを実施した群では,アタッチメントの状態安定性が増幅していた。しかしながら,安全感のプライミングを一度ではなく日を分けて反復的に実施しても,アタッチメントに関する特性,つまりアタッチメントスタイルや精神的健康度は有意に変化しなかった。本研究を通して,安全感のプライミングの利用可能性および限界に関する知見が得られたと考えられる。
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