力学的境界条件下の偏微分方程式の境界値問題は、従来の境界条件下の問題と異なり、境界上でも力学系を考えることになる。そのため、離散変分導関数法に基づく構造保存スキームを構成する場合、従来のような領域内部の変分計算だけでなく、境界上の保存量、あるいは散逸量にも注目し、境界での変分計算も通じて適切な離散境界条件を導出することで、その構造保存スキームを構成できると期待される。本研究では、相分離現象を記述する、放物型偏微分方程式のCahn-Hilliard方程式にある力学的境界条件を課した、Liu-Wu によるモデルに対して、境界での変分計算も行うことで適切な離散境界条件を導出し、離散変分導関数法に基づく構造保存スキームを空間二次元で直交格子の場合に構成した。なお、Liu-Wuモデルは、領域内部と境界上の積分量がそれぞれで保存するという特徴的な保存則ならびに領域内部のエネルギーと境界のエネルギーの和が減衰するという総エネルギー散逸則を持つが、これらの構造を全て離散的に再現する構造保存スキームを構成した。そして、スキームの解の存在と一意性について、Banachの不動点定理による証明アプローチでは、その不動点定理を適用する、スキームから構成される写像がwell-definedであることとその写像の縮小性の証明が必要となる。最終年度では、時間分割幅と空間分割幅の両方に依存する条件ではあるが、不動点定理を適用する写像が縮小写像であるための十分条件を与えることができた。well-definedであることの証明は今後の課題となる。また、本研究では数値計算の計算コストの削減に向けて、空間一次元の比較的単純な、線形の力学的境界条件下のCahn-Hilliard方程式に対し、線形の構造保存スキームや、スタッガード格子を用いて空間の分点の数を減らした構造保存スキームも構成し、その可解性について論じた。
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