研究実績の概要 |
箱玉系に関する研究, 特に新たな逆散乱法のアルゴリズムを構成し, これまで知られていたいくつかの逆散乱法間の関係式を明示的に与えた. 新たに得られたこの関係式によって,より一般的な状況の箱玉系に対する一般化流体力学極限の証明手法の構築が進展すると期待される. 離散ソリトン系である箱玉系の時間発展法則は複雑であるが, 逆散乱法によってダイナミクスを "線形化" できることが知られている. これまで知られていた逆散乱法として, 1. 粒子配置に対してヤング図と整数列のペアを対応させる Kerov-Kirillov-Reshetikhin 全単射 を用いた組み合わせ論的ベーテ仮説に基づく手法, 2. 粒子配置から "10" の組を取り除いていく操作を繰り返し, ソリトンが消失した場所を記録していく 10-elimination, 3. 粒子配置がソリトンらを頂点集合としてツリー表示できることを用いた slot decomposition, などがある. 本年度の研究では, carrier によるダイナミクスの定式化に着目し, 粒子配置に "座席番号" を付与するアルゴリズムを提案した. これを用いることにより, 1. と 3. の同値性, 特に各手法によって得られる散乱データ間の関係式を明示的に与えた. また, 2. による除去操作は, 3. によって得られる散乱データに対するシフト作用素であることを示し, これを用いて 2., 3. によって得られる散乱データ間の関係式を得た. 上記の結果らは, [Kirillov-Sakamoto-09] により知られていた 1., 2.間の対応の別証明にもなっている.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
箱玉系は複数分野に深く関連する数理モデルであるため, 様々な問題設定で様々な研究手法が用いられてきた. 特に, 組み合わせ論的ベーテ仮説の枠組みでは, 多色箱玉系や容量が一般化された箱玉系など, 複雑であるが自然な一般化が考察されている. 一方で, 確率論的アプローチによる研究は始まったばかりであり, 考察されている状況も限定的であった. そこで, まず限定的な場合において, 確率論的, 組み合わせ論的アプローチの対応を研究し, より一般的な状況に対する確率論的手法の構築の準備を行った. 具体的な対応が得られただけではなく, その関係をうまく記述する新たなアルゴリズムも得られたことから, 研究は順調に進展していると判断する.
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今後の研究の推進方策 |
本年度に得られた研究成果を用いて, より一般的な設定の箱玉系における確率論的手法を構築する. また, この手法を用いて一般化流体力学極限を導出する. 箱玉系の研究に加えて, 一次元確率調和振動子鎖の研究を行う予定であった.こちらについて, 当初の計画では海外渡航を念頭においていたが, 社会情勢の急激な変化により, 時期を見合わせる必要が出てきている. そのため, 国内にいる間は, 共同研究者らと連絡が取りやすく, 進捗も順調である箱玉系の研究を優先する.
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次年度使用額が生じた理由 |
当初は情勢の安定化を期待し, 出張費として使用する予定であった. しかし, 依然として出張を行うことは難しく, 共同研究者らとの打ち合わせや研究集会への参加はオンラインであったため, 使用する機会がなかった. 翌年度に情勢が改善すれば出張費として, 改善しなければオンライン打ち合わせを効果的にするための機材費やライセンス費として使用する予定である.
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