土壌汚染において,有害物質が土壌の中で拡散する様子は,通常の拡散と異なり,異常拡散現象と呼ばれている.この異常拡散現象を記述する時間非整数階拡散方程式に着目し,この方程式に対する均質化法とその逆問題への応用について研究を行った.本研究は,異常拡散現象の理解を深め,現実世界の現象への応用を目指すものである. 2021年度は,周期的な構造における時間非整数階拡散方程式から均質化された構造における時間非整数階拡散方程式を均質化法により導出し,異なる構造間における拡散係数の関係式を得た. 2022年度は,均質化法の結果を応用し,異なる構造間の逆問題として二つの逆問題を考察した.一つは周期的な構造における観測データから均質化された構造における拡散係数を決定する逆問題であり,もう一つは均質化された構造における観測データから周期的な構造における拡散係数を決定する逆問題である.この二つの逆問題を解決するため,2022年度から逆問題の研究者と共同研究を開始し,均質化された構造における定数拡散係数を最小限の観測データから決定する逆問題(定数拡散係数決定逆問題)における一意性と安定性を示した.そして,いくつかの仮定が必要になるものの,定数拡散係数決定逆問題の結果と均質化法の結果を統合することで,異なる構造間の逆問題における一意性と安定性を導くことに成功した. 2023年度は,香港で開催された国際会議のミニシンポジウムに招待され,本研究の成果について講演を行った.また,時間非整数階拡散方程式に対する均質化法と逆問題に関する一連の成果を責任著者としてまとめた48ページに及ぶ共著論文が学術誌に掲載された. 今後の研究の展開としては,時間非整数階波動方程式などにも焦点を当て,均質化法とその逆問題への応用に取り組む予定である.これにより,より広範な現象に対する理解を深め,新たな応用可能性を探求する.
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